転生希望者 男子高校生17歳
「それで、このハーレム世界希望ってのどういう事なの」
彼は単刀直入に彼へ尋ねた。
今日の転生希望者は久々の曲者だった。名前は佐藤。17歳で、都内の高校に通うごくごく普通の男子高校生だった。背丈も普通、至って健康そのものな彼は未来に挫折するような少年には見えなかった。神様もこいつは好青年になるだろうな、と思うぐらいだった。だが、佐藤少年はあろうことは注文書にハーレム世界希望と書いた。
「えっと」
ちゃぶ台を挟み、彼と神様の2人と相談をしていた佐藤は照れながら頭をぽりぽりと掻いた。それから、申し訳なさそうに答える。
「女の子とイチャイチャしたいです」
「すりゃいいでしょ。もしかして童貞だったり女の子と話す事が無かったり?」
神様はかなり包み隠さず言った。
「……つまり異世界へ行って美少女に囲まれてあんな事やこんな事をしたいわけか、それだけのために異世界へ転生希望するとでも?」
「そうです」
彼の問いに佐藤は物怖じせず答える。急に強気に出たな、と神様は参ったような顔をした。彼もまた、目の前の少年がそういう理由で異世界転生を希望するという事にあきれ気味だった。
「じゃあ、百歩譲って異世界ハーレム世界に行くとするか。どんな世界を希望したいんだ?冒険もしたり世界救ったりはしないの?」
「したいですけど危険な目に会うのは嫌です。なるべく楽な世界がいいです。それから女の子と全員くっつきたいです、出来れば全員可愛い子で」
「追加で50万くらい分捕ってもいいかコイツ」
神様が彼に耳打ちするが、彼も流石に悩んでいる様子だ。
「こんな不純な動機で異世界行きたがる奴はこれで15人目だな」
「そんなに」
佐藤は彼の言葉に思わずぎょっとした。
「異世界行ってエルフと子作りしに行ったのが3人、オークに輪姦されて孕みたくて行ったのが2人、とにかく手当たり次第に女を食いたくて行ったのが4人、現実世界じゃ結婚どころか恋愛もままならないから異世界に婚活しに行ったのが6人」
「えっ、何それ怖い」
彼の話に佐藤は驚いているが、彼にとってはまだ序の口だ。ユニコーンのツノで尻から犯されたい為だけに異世界に行った変態がいるのを彼は知っている。
「さて、とりあえず世界の目星が付いたぞ、これだ」
彼は目の前のテーブルに書類を置いた。
「読んでみ。これで合ってるか疑問だけど」
神様に促され、佐藤は書類に目を通した。
書類の字面を見て、佐藤は思わず生唾を飲み込んだ。人と亜人種やモンスターがいる世界で、一日は26時間、文明レベルは中世と近世と現代をごちゃまぜにしたような物で、尚且つどこの国も戦争を行っておらず、そして一時の平穏がある。
何よりも佐藤が驚いたのはその中のある文面だった。男性がいない王国があり、若く素晴らしい若い男性を国全体が求めているというものだ。
「これにします!!!」
「即決か」
「即決だな」
彼と神様は顔を見合わせて困った顔をした。
「えーっとな、この世界で行けるには行けるけど料金は高く付くぞ。ぶっちゃけ25万ほど掛かったりするけど……」
「大丈夫です!貯金したお小遣いがあります!」
「最近の子供は金持ってるな……18歳になるまで貯めて風俗行けばいいじゃないのあんた」
神様はまたも辛らつだったが、佐藤の耳にはそんな些細な話は入ってきていないようだった。顔を紅潮させ、期待が入り混じった目であれこれ不純な事を考えていた。
佐藤の転生はその日のうちに1時間で終わった。この界隈では割とポピュラーな「ダンプカー転生」のために深夜の国道に放置し、神様の知り合いである建設会社のダンプカーで轢いた。遺体は残らず、ダンプカーに少々傷をつけた程度で転生は満了したのだった。
契約は履行され、神様はノルマ達成に一歩近づき、2人は家賃と生活費を稼ぎ、仕事のための資金をまた溜め込んだのだった。
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「この間の少年の結果報告来たぞ」
その翌日、神様はコンビニ帰りに彼のアパートの玄関に入るなりそう言ってきた。
この仕事をする上で、転生した後の結果報告……要するに顧客がどう異世界で過ごしているか、または過ごしていたか報告を受けて後の仕事にフィードバックする事が義務付けられている。神様曰く「上司からやれと言われてるから」との事だ。
神様が上司から受け取ったとされている封筒を彼へ手渡す。彼は封筒を明けて中の書類を取り出し、机の上に広げた。
神様もコンビニで買ってきたメロンパンをほお張りながら報告書に目を通す。
「例の少年はスケベを達成できたかな」
「さあ……」
彼は報告書の文面を一通り見ながら、げっと小さな声を漏らした。
佐藤少年の偉大なコンクエストはどうやら失敗に終わったらしい。ハーレムを目指して、エルフの村へ到達したはいいが運悪くオークの襲撃を受けて“オークの砦”に連れ去られてしまったそうだ。
それから勇者の一団がやってきて彼は救出されたが、どうもその勇者の一団が全員男色家であり佐藤少年をいたく気に入ってしまったらしく、彼は一団の“愛人”として可愛がれてしまったそうである。
しかし長い事彼らと過ごすうちに佐藤少年もその気が開花してしまったのか、現在は勇者たちと楽しく過ごしているそうである。
「何が起こるかわかんねえなあ……」
彼は呆れたように呟いた。神様はこくこくと頷いた。
「まあいいじゃん。勇者サークルの姫さまにはなれたでしょ」
異世界とは何が起こるかわからない物である。彼は改めてそれを痛感した。
異世界に一番近い男 大佐 @wizwiz9
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