【3分読み】熱海に行って魚を食おう!
「西暦1999年、ノストラダムスの予言は最悪の形で現実のものとなりました。宇宙より飛来した巨大な甲虫の大群。高度に発達した知的生命体の脳を食らうことを本能としたその宇宙甲虫は人間だけを襲います。奴らに対抗するべく地球連邦は大規模な攻撃を仕掛けたのは皆さんも記憶に新しいことでしょう。結果は知っての通り。……惨敗でした。奴らの硬い外殻はミサイルでも貫けない。女王虫に至っては核兵器ですら耐えたのです。科学研究所はあの虫達に対抗できる新兵器の開発を行ってはいますが、このペースでは開発が終了する前に人類は残らず奴らに食い尽くされることでしょう。時間がないのです」
地球連邦軍極東本部総司令官、井之頭真衣。
2年前。若干二十歳にして士官学校を首席で飛び級卒業したエリート中のエリートはたった2年でこの極東本部総司令官に任命された。彼女はまだ幼さの残る端整な顔を歪ませて言葉を吐き出す。
四人の隊員は整列し壇上の彼女の言葉に耳を傾けている。
張り詰めた緊張感の中、彼女は続ける。
「彼らに有効な攻撃方法はまだ一つ。内部からの破壊です。
即ち人間が爆弾を身体中に巻き、食われ、あの虫どもの体内に爆撃をぶち込むしかないのです」
無言で話を聞く隊員達。表情は固い。
「ですが、月を黒く染めるほどの大群で押し寄せる虫達です。一人一殺では人類すべて餌になるだけです」
ぐっと目に力を込める真衣。
「……狙いは女王です。女王さえ倒してしまえば群の行動は著しく鈍る。そして、女王さえいなければ、時間が稼げる。開発中の新兵器の完成まであと少し。時間さえあれば人類にも希望が生まれる。
あなたたちは連邦軍の中でも選りすぐりのエースパイロットです。あの虫の大群をかいくぐり女王の元にたどり着くことも不可能ではない、と判断されました。戦闘機に満載に積んだ超小型核爆弾と一緒に女王の体内に潜入できれば、あいつを倒すこともできるかもしれません。
こんなことをお願いするのは心苦しいのですが……。人類の為に、お願いします。
女王に食べられてください。全人類を代表してお願いします」
深々と頭を下げた井之頭極東本部総司令官。
部屋の中を静寂が包む。
ごほん、とわざとらしく咳をして沈黙を破ったのは小笠原タカシ隊員だった。
「腹一杯食わせて、お腹壊させてやりますよ」
へへんと笑う彼は今年三十歳になる中堅パイロットだ。
「小笠原さんの不摂生な食生活を見てると、不味そうで虫も食べないんじゃないかって思いますけどぉ」
隣の女性隊員がほんわかした調子で茶々を入れる。
青崎ミカ。まだ二十代半ばの若い隊員だ。
「なーに言ってんの。ミカだって甘いものばっかり食べてて最近腰回りに肉ついてきたんじゃないのー?」
ミカの腰をつまむモデルのようなプロポーションの金髪の女は早乙女シャオラ。
ミカは飛び上がり悲鳴をあげた。
「ば、ばか言わないでください!てか、触んないでくださいよぉ」
「まったくお前たちは、すぐにおちゃらけるんだから、いい度胸してるぜ」
髭面の男はやれやれとあきれ顔だ。
「坂本大尉、すみません。いつもあなたの部隊ばかり貧乏くじを引かせてしまって」
「いえ、人類の未来の為に重要な作戦に参加できて光栄であります」
背筋を伸ばし坂本大尉は声を張る。
「それに」と坂本は笑みを浮かべる。
「あなたの為に死ねるなら本望です」
敬礼をする坂本に合わせて他の隊員も手を挙げた。
皆さん、と呟いた司令官の瞳に大粒の涙が浮かぶ。
井之頭真衣は拳を握り、瞳を固く閉じ、なんとか涙を奥へ閉じ込めた。
「出撃は来週の月曜日です。短いですが最後の休暇を取ってください」
できるだけ平静を装い告げる。
「ばか言っちゃいけませんよ。俺たちゃ家族もいない孤児部隊ですぜ。休暇をもらってもやることないですぜ」
湿っぽい雰囲気はごめんだとでも言うように坂本が答える。
「エロ本の整理も済ませちゃいましたしね!」
小笠原隊員も軽口を叩く。
「なら、どこか旅行にでも。本当にこれで最後になるんですから」
命令を出している井之頭の方が嘆願するようだった。
新任からずっと一緒だった部隊の隊員が来週には死地に旅立つということを受け入れられていないのだろう。
「上司に泣かれちゃしょうがない。じゃ、坂本部隊。最後の慰安旅行とでも行きましょうか」
「わっ!いーですねぇ!」
子どものようにはしゃぐミカ。
「この前は軽井沢でしたけど、今回はどうします?」
サッと手帳を取り出して確認を始めるシャオラ。
「よし、じゃ最後の慰安旅行は海だ!
最後なんだから、司令官も付き合ってもらいますよ!
よーし!熱海に行って魚を食おう!」
こうして、死を覚悟した四人の戦士たちとその指揮官は熱海に3泊4日の慰安旅行に出かけることになったのだ!!
完
1分〜5分で読める短編集 ボンゴレ☆ビガンゴ @bigango
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