【1分読み】掌編 「本棚」

 引っ越しの為に部屋を整理していた時、本棚の古びた大学ノートからヒラリと一枚の写真が足元に落ちた。


 写真には故郷の母校の前でまだヒゲを生やしていない頃の僕と友人達が制服姿で微笑んでいた。

(卒業式か…、懐かしいな…)


 片づける手を休めダンボール箱だらけの狭い部屋に腰を下ろす。


 懐かしい顔ぶれに忘れかけていた当時の思い出が蘇ってくる。


 漠然とした期待と根拠のない自信を胸に都会に出てきて早5年。


 冷たい都会の風に吹かれ、いつしか胸にはわびしさだけが残っていた。


 写真の中の仲間は皆キラキラと輝いて見え、孤独な自分に向かって帰ってこいと暖かく微笑んでいる気がした。



(だけど…、も少しここで頑張ってみるよ。)


 写真をノートにはさみダンボール箱に入れる。


 明日から新しい職場。


(頑張るしかない。頑張るしかないんだ…。)



 新しい風はいつでも街に吹いている……。


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