【1分読み 童話】アンデルおばさんの子守唄

アンデルおばさんは言いました。


「小さい頃、私の家は貧乏でその日の食事さえもままならない生活だったの。もちろん女の子だもの、お洒落な洋服を着てみたいと思ったこともあったわ。でもムリね。両親の汚れた両手を見る度にそんな気持ちはどこかへ行ってしまうの。お洒落はお金持ちだけが出来る事なのよって自分に言い聞かせたわ。

 だから私一人で部屋にいる時は空想する事で自分を慰めていたの。大きなお屋敷で、綺麗なお洋服を着て午後のティータイムを楽しむ私の姿を。

 空想の世界では私は自由なのよ。

 それに初めて気づいた時、私はとても嬉しかったわ。私の空想は誰にも邪魔出来ないの。

 お城のお姫様になることも、大空を飛ぶ鳥になることも全部私の思うままなのよ。

現実は確かに辛く厳しかったわ。たぶん、あの辛さは今の子には理解出来ないわね。


 日が昇る前から日が落ちるまで働いてやっと明日1日生きれるだけのお金が手に入る暮らしよ。でも、私平気だったわ。

 家の薄っぺらい布団に潜り込んで色々な事を空想する事が私のただ一つの楽しみだったの。

 そして、それだけで明日1日生きていけるってそう思ったの。でも、今はもう無理かもね。昔は今みたいに娯楽がない時代だったから。


 ねえ、たかしちゃん。人間って働く為に寝るんじゃないのよ。ゆっくり寝る為に働くのよ。それを忘れないでね。」


アンデルおばさんはそういうとたかしちゃんの頭を撫でてくれました。


たかしちゃんは分かったような分からないような顔をいつまでも、いつまでもしていましたとさ。



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