第2話 →白馬の王子様→道具屋
【白馬の冒険者】
その日私は不思議な鍋を見つけた。
私はこの辺りを中心に活動している冒険者。パーティーの仲間や周りからは『白馬』と呼ばれている。主に移動を持ち馬でしており、その愛馬が汚れなき白い毛並みを持つことからだろう。
今回我々は、瘴気の森にて不思議な音が聞こえるらしいとのことで、詳細を調べる依頼を受けてやってきた。
やってきたはいいが、特に変な感じはしない。不思議な音も聞こえるわけでないし、聞こえる時と聞こえない時とあるのだろうか?周りを見回しながらパーティーと共に森の中を進んでいると、木の枝にひっ掛かっている鍋を発見した。
その鍋は、元が鍋であるとやっとわかるものだった。鍋の取っ手は取れてなくなっており、鍋と幹の間に挟まっている蓋らしき物にも取っ手はない。元からないのではなく、ついていた跡がある。
その鍋は、枝に挟まり少しの風でもカランカランと、枝にぶつかって音がしていた。その音は、静かな森のなかに意外にも響いた。
「もしかしてこれが不思議な音の正体?」
パーティーのメンバーが呆気に取られたように言う。
「そう…か?」
風が続けて吹いたら、不気味な音に聞こえなくもないかもしれない。完全に納得がいった訳ではなかったが、他に変わったこともなさそうなので、その鍋を持ち帰ることとした。
その鍋を持ち帰る間、体の奥からゾワゾワとしていた。もしかしたら呪いのアイテムか?嫌それにしては魔力を感じない。呪いのアイテムは広義の
事の次第を説明し──といってもある程度大きな音をたてるものがそれであったということだけであるが──依頼達成とした。
大通りをすすみ、たまたま目に入った道具屋に売ることにした。
*******
道具屋に並んでから数日、道具屋の主人にはとても大事にしてもらった。
まず、デコボコだったボディをなだらかにしてもらった。カナヅチ?みたいなので、トンテンカンテン、結構長い時間をかけてたたかれた。凹んだ場所を裏側からトンテン、盛り上がった場所をカンテン、表からたたく。
いや痛いよ?カナヅチでたたかれて痛いよ?でも我慢なのさ。きれいなボディを取り戻すためには、少しじゃないけど、我慢も必要なのさ!
そして、なだらかになったら、フカフカながら芯の通った布で、適度な力加減で磨かれる。ゴシゴシ、長年の垢をとるように念入りに、綺麗にしていく。これで私はピッカピカさ!それになにより、痒いところに手がとどくといった表現は、今この時のためにあると思ったよ!
おうふ。いい…いい…!気持ちえぇ!
ああ、こらえきれなかった。思わずへんな声が漏れてしまった…なんてね。口がないから漏れるわけないじゃん。
しかしホント気持ち良かった。前よりも高そうな素材の取っ手もつけてもらったし、いいことだらけだ!そしてなにより、また磨いてほしい!!
と願ったのがフラグになったのか、また売られることになってしまった。
…はぁ、いつになったら大事にしてくれる人のところに永住できるのだろう?永住まではいかなくとも、ある程度の期間、手元に置いてくれないと言葉も覚えられないし。白馬の王子様のパーティーも、みな必要なこと以外喋らない人達だったからな。それに魔力の感覚を掴むこともできないや。そもそも魔力なんて本当にあるんだろうか?魔女のおばあさんが不思議工程でファンタジーな液体を生み出していたから、魔法っぽいものはあると思っていたけど。
主人よ、さよなら。磨いてくれた恩は忘れない。…恩を返せるかはわからないけど。
*******
《唯の鍋/──
耐久値:4/4 精神値:10/10
素材:本体─なんだかよくわからないモノ、取っ手─ありふれた金属
説明:召喚された魂が何億分の一かの確率で鍋に宿ったモノ》
*******
【道具屋の主人】
A級冒険者、『白馬』から買い取ったこの鍋。取っ手は取れているわ、凹みが激しいわ。それなりに使い込まれてはいるようだが、それにしてもどんな扱いをすればこんな風になるのやら。彼はこれを瘴気の森で見つけた、その時からこの壊れ具合だと言っていたが…。ただ、まあ直そうとすれば直せる。しがない道具屋の主人ではあるが、若い頃は鍛冶屋で働いていたこともあるのだ。この凹みを直して取っ手を付けるくらいなら片手間にできる。そして直したら、かのA級から買い取ったとして、付加価値を付けて売り出そうとおもっていた。
しかし、かのA級もさすがに見破れなかったか。どんなに誤魔化そうが私の慧眼は欺けないぞ。
凹みを専用の道具で直すまでは良かった。鍋に合うパーツを選んで取っ手を付けても、何も変化がなかった。しかし、一見普通の鍋にみえるかもしれないが、何を隠そうこの鍋、悪魔が取り付いているのだ。
なぜなら、最後の仕上げに磨いている時にフルフル震えるどころか、変な声まで聞こえてくるのだ。磨き布で磨く度に人の溜め息みたいな呻き声みたいな、不気味な声。磨いているうちに、気味が悪くなった。
そしてこの鍋の扱いに迷うことになる。
悪魔祓いがいる教会に預けるか、このまま捨ててしまおうか…いや、捨ててしまうのも躊躇う。付加価値が高いと思い気合を入れて磨いているうちに変な愛着のようなものが湧いてしまった。悪魔がついているというのに、それこそ取り憑かれてしまっただろうか?
うむむ、とうなっていると、一人の少女が店に入ってきた。制服から、王立学校の生徒だろう。
少女は、入って来てすぐに食い入るように鍋を見た。購入を希望されたが、さすがに渋ってしまった。歯切れ悪く対応していると、どうしてもと言われた。錬金で使うかき混ぜ棒やら触媒やらも一緒に買うので安く売って欲しいそうだ。そこで、条件付きで売ることとしたのだ。
魔鍋を目指して幾星霜 〜人化を夢見て〜 琴梨 @kotori123
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