真夜中の訪問者

RAY

真夜中の訪問者



 あたりは水を打ったように静まり返っている。

 寝付けない僕は、何度も寝返りを打ってはため息をついた。

 枕元のデジタル時計に目をやると、暗闇に「2:00」という、青緑色の文字が浮かぶ。


『この感じ……。この前と同じ……』


 布団を頭からかぶって身を硬くする。心臓の鼓動が速くなっていくのがわかる。呼吸が苦しい。空気が薄くなったような気がした。


 静寂を破るように、玄関の方から愛犬・ジョンの「ウウウ」といううなり声が聞こえてきた。


『やっぱり……』


 ジョンが狂ったようにえている。

 目をつむって、両手で耳を押さえた。


 しばらくすると、ジョンの声が聞こえなくなった。

 喧騒が嘘のようにあたりは再び静寂に包まれる。


『来たんだ……。あいつが……』


 これから起きようとしている出来事がわかるだけに、恐ろしくてたまらなかった。目をギュッと閉じた。歯と歯がぶつかってカチカチと音をたてている。


 不意に背筋が凍りつくような悪寒が走った。

 鋭利な刃物のような視線を感じる。ベッドの脇にがいる。

 しかし、助けを呼ぼうにも声が出ない。金縛りにでもあったかのように身体がピクリとも動かない。


『今日はタダじゃ済まないかも……』


 以前、その姿を垣間見たことがある。

 闇の中で、憎悪ぞうおに満ちた、二つの真っ赤な瞳が光っていた。

 忘れたくても忘れられない。今でもはっきりと脳裏に焼き付いている。


 荒々しい息遣いとともに、顔に熱い息がかかる。

 は、文字通り、目と鼻の先にいる。

 決して夢なんかじゃない。


『神様、助けて!』


 目を閉じてひたすら祈り続けた。

 今の僕にできることはそんなことぐらいだと思いながら。


 どれくらい時間が経っただろう。

 噴き出した汗で全身がシャワーを浴びたように濡れている。


 ただ、必死の祈りが通じたのか、部屋を覆っていた禍々まがまがしい気配は消えていた。

 枕元に目をやると、暗闇に「3:00」の数字が浮かんでいる。


『助かったんだ……』


 そう思った瞬間、身体中の力が抜けて僕は気を失った。


★★


 次の日の朝、前日のことを両親に話したが、信じてもらえなかった。「夢でもみたんだろ?」。そんな言葉で一蹴いっしゅうされた。


 しかし、今回のようなことが起きたのは三回目。しかも、ここ二ヶ月での話だ。

 今夜、また同じことが起きないとも限らない。無事でいられる保証などどこにもない。


 居ても立ってもいられなくなった僕は、近くの寺へ足を運ぶことにした。

 非現実的だと言われてもいい。無駄な努力だと笑われても構わない。大切なのは、今、直面している事態を解決するすべを見つけることだから。











 寺を訪れた僕は、ジョンの墓に手を合わせた。



 RAY



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真夜中の訪問者 RAY @MIDNIGHT_RAY

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