彼女は幻影。それゆえに、何者も彼女を捉(とら)えられない。
異世界に生きる女剣士、クロウ。
彼女はかつてこの世界を「救った」転生者の子であった。
その転生者によって「救われた」結果、狂ってしまった世界――昨今の異世界とは似て非なる、ファンタジーのようでいて、ハードボイルドな荒んだ世界。
その狂った世界の中、闊歩する悪党どもを相手取り、わが道を歩む女剣士、クロウ。
彼女の二つ名はファントム――幻影、あるいは幽霊。
その剣閃は、鋭く、速く、誰にも捉えることはできない。
その彼女の旅路は、有象無象の思惑が跳梁し、そして転生者の影が見え隠れする。
果たしてクロウは、その人生はいかなる軌跡を行き、いかなる結末を迎えるのか――
具体的な敵や旅の過程を語るのは無粋でありネタバレなので控えますが、重厚かつ長大な冒険活劇であり、気がつくと毎日読んでいる自分がいます。
そして大長編ではありますが、それゆえにこその、読み進めていくことの面白さ、読んでいくことにより、主人公・クロウと旅の道行きを共にしているという味わいがあります。
その主人公・クロウが愛飲する火酒のごとく、どこまでも熱く、酔わせてくれる逸品だと思います。
ぜひ、ご一読ください。
他の評者の方も述べている通り、もっと評価されるべき作品であると思う。星が三つでは足りないというのも納得。
ようやく第一部を読了したあたりなのですが、ダントツに台詞回しと立ち回りのシーンがカッコいい。ファンタジーな世界観にハードボイルドをもってきたのは不思議なチューニングだが、読み進めていくうちにこのミスマッチが癖になる。
作品世界の基調となっているドライで殺伐とした雰囲気は好き嫌いが分かれるところかもしれません。わたしのように好きな人間には堪らないはず。
作者のプロフィールの好きな映画監督にはありませんでしたが、コーエン兄弟っぽさも感じました。巷にあふれる異世界転生ものを嘲笑うがごとき、転生者らの所業とその顛末も見物。作中で出てくる転生者を殺傷できるアイテム同様に、この作品自体も“転生者殺し”と呼ばれるべきかもしれません。
追記
ラストまで読み終わって感じるところを少し。台詞回しや立ち回りのカッコよりむしろ無造作な筋立てと思わせつつ綿密なプロットが効いているところに唸らされた。各部のラストには、いつもハッと息を飲む結構が待ち受けている。
昔の悪漢たちをメキシコ人たちが気安い神として崇拝するように、ファントム・クロウも不思議な作法で語り継がれるのでしょう。
寄り添ってはくれないとしても、ささやかな決意や勇気を捧げれば横で共に戦ってくれる存在として。
もし、この世界に転生したなら、街角の小さな土産物屋に安っぽい造形と塗装ながらも活き活きとしたファントム・クロウ人形を見かけるかもしれません。