其の八 囚われのマコト
「ううっ…ソラカゲぇ…ひっく…ひっく…」
ラムゥのパワードスーツの腕に首を掴まれたまま顔中涙でクシャクシャにしながらむせび泣くマコト。
「このメスガキ、鬱陶しいですね…もう人質の意味も無くなった事ですし絞め殺してやりましょうか」
ギリギリと機械の腕に力が籠る。
「かはっ…!!うえぇぇぇ…」
見る見るマコトの目から精気が失せていく…。
口からは唾液が溢れて来る。
「…やめろ!!!」
「…はい?」
制止の声を上げたのはファイナルサムライであった。
「何故止めるのです?この少女にはもう何の利用価値も無いのですよ?」
「知っているぞ…この作戦はお主の独断専行であると…」
「なっ…藪から棒に何を言いだすのですか…?」
ファイナルサムライの指摘に顔色が変わりあからさまに挙動不審になるラムゥ。
「ジェリーマンと言ったか…お主の主君は恐ろしい人物と聞く…目的は果たせたのだろうがこのまま手ぶらで帰ってただで済むとは到底思えん…」
「ムグゥ…」
「この童はソラカゲと行動を共にしていた…
奴がかの『れじすたんす』と繋がっていたかも知れぬ…
ここはこの童を連れ帰って尋問した方が得策と思うがどうか?」
「…それもそうですね…助言感謝しますよ先生…」
若干腑に落ちないといった表情をしたラムゥだったが
ここはファイナルサムライの提案を受け入れる事にした。
アームから解放されたがマコトは既に気絶してしまっていた。
ファイナルサムライが両腕で抱きかかえる。
「………」
自身の腕の中でぐったりするマコトの顔を暫く見つめる。
やがて意を決したかのようにラムゥと共に歩き出した。
仮面をしているので表情は窺い知れないがマコトを抱えながら歩くその姿からはどこか慈しみの様な物が感じられた。
ラムゥとファイナルサムライが去って暫く経った。
先程ソラカゲとファイナルサムライが死闘を繰り広げた場所…
辺り一帯はラムゥが放った弾薬のせいで荒れに荒れ果てていた。
そんな中、僅かに地面が盛り上がる…丁度人間が一人入っていそうな大きさだ。
「…はぁはぁはぁ…」
土の中から出て来たのはソラカゲだ。
一斉砲火を受けつつも何とか地面に潜って難を逃れていたのだ。
地面に散らばっていた装備品は敵の目を欺くためにソラカゲがばら撒いた模造品であった。
しかしヘルメットや装甲は傷だらけ、スーツもあちこち破れてしまっていてとても無事とは言い難かった。
「…マコトは…その辺に転がっていなければ無事だろう…奴らがさらって行ったと見て間違いない…」
片膝をついて肩で息をしながら周りを見回していたがおもむろにヨロヨロと立ち上がる。
やがて何の迷いも無くある方向へと歩き出した。
そして辿り着いた先の地面に張る樹の根の裏側を覗き込む。
「…カエデ…無事か?」
『あっ…ソラカゲ…救難信号気付いてくれたんだ…ありがとう』
そこにはカエデが居た。
彼女も全身の装甲が凹んでいたり傷付いたりしていたが
深刻なのは左腕の肘から先が欠損してしまっていたのだ。
『ごめん…しくじっちゃった…マコちゃんを守れなかったよ…』
「いや…今回はオレの判断ミスが招いた結果だ…」
落ち込んでいるカエデを抱き起し、ソラカゲは彼女の腹にあるハッチを開け、そこに手を入れ何やら探っている。
そして引き抜かれた手に握られていたものは紺色の筒状のパーツ…
カエデの左腕だった。
カエデの体内は空間が圧縮された状態で封じ込まれていて見た目の容量以上に物を入れておくことが出来る。
不測の事態に備えてスペアのパーツや修理道具を収納していたのだ。
「今、治してやる…動くなよ」
『いつも済まないね~ゴホゴホ…』
「バ~カ…こんな時にふざけるなよ…」
いつものソラカゲならカエデを叩いてツッコんでいただろうが
今は何処か寂し気で優しかった。
暫く黙々とカエデの修理が続く…
『ありがとうソラカゲ…』
カエデが何度も左腕を曲げ伸ばしたり掌を握ったり開いたりしている。
何の問題も無く動かせている様だ。
「…さてと…次はマコトの奴を迎えに行くか…っとと!!」
ゆっくりと立ち上がろうとしたソラカゲであったが膝に力が入らずそのまま後ろに倒れ込んでしまった。
『大丈夫ソラカゲ!?まだ無理しちゃだめよ!!』
「そんなこと言ってられるかよ…あの泣き虫はすぐに連れ帰ってやらないと…」
ソラカゲの体内には自己修復機能が備わっている。
じっとしていれば体内の修復用ナノマシンが破損箇所を自動で修復するという物だ。
しかしそれにはその破損状況に応じた時間を必要とする。
戦闘終了からかれこれ1時間程経っていたがまだ満足に動けるまでの回復に至っていない…それだけ先の戦闘で受けた傷が深かったのだ。
「…!!気を付けろカエデ…誰かがこちらに近づいて来る…3人…4人か?」
上体だけを起こしソラカゲが声を潜める。
彼の聴覚が複数人の人物の足音を拾ったのだ。
最悪の展開…
満足に立ち上がれない状態のソラカゲだ、戦える状態では無い。
相手の戦力によってはカエデ一人では凌げないかもしれない。
それでもカエデはソラカゲの前に立ち戦闘態勢を取る。
やがて茂みからその何者かが現れたのだった…。
「悪く思うなよ…」
鉄格子で囲われた部屋にあるベッドにマコトを横たわらせた後、扉を閉める。
その足でファイナルサムライはラムゥの居る作戦室まで足を運んでいた。
「ご苦労さま…先生」
「では約束の報酬を頂こうか?」
「既にそこに…」
ラムゥが手を差し出した先に在るテーブルの上に数枚の書類が置いてありファイナルサムライが手に取り目を通す。
すると次第に彼の肩がワナワナと震えだしたではないか。
「何だこれは!?これではお主に調査を依頼した意味がないではないか!!」
書類をテーブルに叩き付け部屋中に紙が散乱する。
「ご要望通りサナエと言う少女の捜索は致しましたよ?ただ見つからなかった…それが事実です…もしかしたらとっくに亡くなっていらっしゃるのではないですか?」
「ふざけるな!!そんな…そんな筈はない!!」
拳を握りしめ声を荒げるファイナルサムライ。
先のソラカゲとの戦いでもここまで感情を露わにしてはいなかったと言うのに…サナエと言う少女は彼にとってどういう存在なのだろうか。
「納得がいかないのでしたらどうぞご自分で捜して下さいな…あのニンジャを倒した今、私と先生の契約は既に終了しているのですからね」
ニタニタと下卑た笑みを浮かべるラムゥ。
大方、ファイナルサムライはサナエを捜索してもらう代わりにソラカゲを討つという契約をラムゥと交わしていたのであろう…。
だがこれではサナエ捜索の真偽がどうあれ実質無報酬で仕事を請け負ったのと同義であった。
狡猾なラムゥらしいやり方である。
「…失礼する!!」
不機嫌そうに踵を返し部屋を出て行くファイナルサムライ。
ドアをわざと大きな音が立つように閉めていった。
「フフッ…馬鹿は扱いやすいですね…」
ソファに背中を預けふんぞり返る。
すると今絞められたばかりのドアが再び開いた。
「…!!今のは先生の事では無く…その…アレですよ…!?」
ファイナルサムライが戻って来たと思って慌てるラムゥ。
しかしそこに立っていたのは彼では無かった。
「何を慌てているの?ラムゥ」
「何だエンキッキ様ではないですか…脅かさないでくださいよ…」
「御機嫌よう…お久し振りね」
静々と部屋に入って来たのは十二人委員会の一人、エンキッキであった。
相変わらず漆黒のボンネットとゴスロリ衣装に身を包んでいる。
そして後ろにはメイド服に身を包んだ者が二人控えていた。
「あなたがこんな辺境にいらっしゃるとは珍しい…今日はどう言ったご用件ですかな?」
「あ~ら…どの口がそう言う事言うのかしら?あなた…ジェリーマン様の通信を無視したそうじゃない…そのせいでわざわざ私が出向いて来たんじゃないのよ、分かる?」
「…そっ…それは…例のニンジャを抹殺するための作戦中でして…たった今ニンジャを打ち取って戻って来たところなのです!!報告はこれからする所だったのですよ!!」
「ふ~ん…成果を出したのは良いでしょう…でもそれを差し引いてもイノシンの件は事と次第によっては…ね?」
ニコリと微笑むエンキッキだったが目が笑っていない。
茶化す様に話す彼に対して怯える様に言葉を捲し立てるラムゥ。
完全にラムゥはエンキッキに弱みを握られてしまっていた。
「でも…さっきここに来る途中の檻に面白い物を見つけたのよね…あの男の子は何?」
「…例のニンジャと同行していた少女…って…今男の子とおっしゃいましたか!?」
「そうよ?そんな事にも気付かなかったの?あれは女物の服を着ているだけ…何だか女の匂いがしてたけどあれじゃあ私の目はごまかせないわね」
さすがオネエと言うべきか…エンキッキは一目見ただけでマコトの女装を見抜いたのだ。
ラムゥもこれには舌を巻いた。
「ねえ、あの子を私によこしなさいな…そうしてくれるんなら私がジェリーマン様に口添えしてあなたを庇ってあげる…どお?悪い話じゃないでしょう?」
エンキッキは十二人委員会ではとても有名な少年愛好者である。
今地球に居る宇宙人の大半にこの嗜好があるのだが取り分け彼は特にその傾向が強い。
地球人の美少年を集めてペット化しているとの噂がまことしやかに流れているほどだ。
「ほっ…本当ですか!?それなら是非あの少年をお連れ下さい!!その代わり今のお言葉お忘れなきように…!!」
「フン…分かってるわよっ!!」
監査で来たはずのエンキッキですらこの有様である…詰まるところ権力を持った者というのは地球人も宇宙人もそう変わらないのかもしれない。
早速エンキッキは喜び勇んで基地内の収監施設に足を運んだ。
「改めてみると本当に可愛いわねこの子…連れ帰ったらあの子たちもきっと喜ぶわね」
エンキッキは気を失っているマコトを見ながら舌なめずりをした。
彼の指示で後ろに控えていたメイドの一人がマコトを抱きかかえる。
そして彼らはそのまま鉄格子の部屋を後にしたのだった。
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