第25話 THANK YOU FOR PLAYING



 日本という国は好きになれない。

 オリヴァー・"デラウエア"・マイヤーズは物陰に身を隠し、嘆息する。


 もちろん称賛に値する点は少なくない。

 白人と見るだけで警戒を解く人々。

 ちょっと文化をおだてただけでつけ上がる国民性。

 他人に対する無関心。

 銃の未普及。

 

 だが憎むべき点も少なくない。

 コネクションが無ければ銃一丁持ち込めない厳重なセキュリティ。

 英語すらろくに通じない異常な閉鎖性。

 どこに行っても料理に豚肉や油が混じっていること。

 あとはそう――――そもそも多神教が幅を利かせていること。

 

 今日はひどい日だ。

 偶像崇拝を禁じられている彼の白昼夢に神を名乗る女神像あくまが現れたり。

 夢の中で異教徒と思しき連中に借りを作ることになったり。

 夢のはずなのに残弾数が減っていたり。

 ――――ろくなことがない。


「……」


 ちらと部屋の片隅を見れば黒い靄が消えるところだった。

 彼がしゃがみ込んでいるのは『転移』する直前に居た廃ホテルの一室だ。

 つまり夢ではない。

 その実感は彼を一時的な混乱状態に陥れた。

 だがいつまでも混乱しているわけには行かない。


 廊下から聞こえる蝋女ろうめの這う音にデラウエアは呼吸を押し殺す。

 再び訪れた命の危機に心拍が上昇し、額に汗が滲む。

 今度死ねば誰も生き返らせてはくれない。

 彼はいつも通り命を賭けなければならない。


「……」

 

 そっと廊下を窺う。

 ジンの話だと丸一日が経っているはずなのだが、廊下を這う蝋女ろうめの数は減ったようには見えなかった。

 時間が状況を好転させることはない。その真理はこの島国でも通じるらしい。


 蝋女はいくら弾をぶち込んでも死なない。

 処理するには火炎が必要だ。 

 ――――あの赤髪の男なら易々とこの状況を打破しただろうか。


 デラウエアは感情が実体を持ったかのごとき火災旋風を思い出す。

 生きとし生ける者すべてを飲み込んだ眩しいほどの災厄を。


(……)


 炎。

 炎に包まれるあの感覚。

 肉が焦げ、髪が焦げ、肺を焼かれる絶望。

 圧倒的な暴威の前に為す術もなく命を奪われる恐怖。


 神に祈る時間すら与えられなかった。

 あれが「死」。


「……」


 死を実感したことは鮮烈な経験ではあったが、戦地で数えきれないほど多くの人々を殺してきたデラウエアが今更罪悪感を覚えることは無い。

 死を他人に強いること。

 それは決して彼の正義感と矛盾しない。


 ――――だが。


 だが彼よりも熱心で攻撃的な神のしもべ、つまり彼の雇い主はデラウエアの撃墜数スコアが冗談に思えるほど多くの人々に死をもたらしている。

 それも軍人と民間人の区別なく。

 生まれも育ちもお構いなし。

 老若男女の区別すらなく。

 

 ×××の路上で。

 群衆集う△△△△△△△で。

 ●●●●●●●●●では大使館で。

 デラウエアの雇い主の一団は野心的な信者の例に漏れず、火炎と銃弾、爆弾で人を葬る。

 彼らは首切りや拷問といった大衆受けするパフォーマンスを好まない。

 一人一人を苦しめるのではなく、『量』と『被害』を重視する。

 彼らは後援者の支持を取り付けるのに必要なのが資本主義的な数とカネの論理であることを知悉している。



 次は飛行機だ、という声が耳に蘇る。



 「るは難く、出るは易し」が日本の本質。

 一度潜り込んでしまえば『この国』から『あの国』へ飛ぶ飛行機は容易にジャックできる。

 我々の手でもう一度、あの日の歓声を取り戻そう。

 『あの男』はそんな言葉を囁いていた。


 デラウエア自身、その計画に加担するつもりでこの国へ来ていた。

 だがもしかすると『あの男』はデラウエアの胸中に燻る灰色の感情を察していたのかも知れない。

 だからこそ蝋女ろうめだらけのこの場所へ置き去りにしたのか。


(……)


 炎。

 炎に包まれるあの感覚。

 あの恐怖。あの苦痛。あの無力感。

 あんなものをまき散らすことが、はたして――――


(……)


 『あまり人を殺めるでないぞ』。

 ――――そんな言葉が蘇る。


「……」 


 オリヴァー・"デラウエア"・マイヤーズを名乗る男、モハメド・ニスルは死と生について少し考える。

 考えた後、廊下へ飛び出す。


 ハイジャックの実行まであと三十時間弱。


 彼は命を賭ける。

 いつも通りに。



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 覚醒した甲斐路虎助(かいじとらすけ)は机のライトで頭を打った。


「いった……! ……。え?」


 もつれた記憶が蘇る。

 闘技場。銃口。赤く染まる視界。


 魔女の顔。

 猛烈な眠気。


 脳の容量メモリを越えたシーンの数々。

 記憶の再生が追い付かず、虎助は眩暈を覚えた。

 肉体は何かを思い出そうとしているのか、胸の辺りに焼けるような感覚が蘇る。


「つか、今何、時……」


 時計が示すのは何と午後八時。

 日付は――――虎助の体感から約二十時間ほど経過している。


「うっ……そだろ」


 嘘ではないことが何気なく掴んだ携帯端末の光り方で分かる。

 着信とショートメッセージの通知がどちらも三桁を越えていた。

 クラスメートから送られたものもあるが、ほとんどは最近親密になった六人から届いていた。

 充電器に繋いでいなければ電源が落ちていたかも知れない。

 

「えっ、と」


 幾つかの文章に目を通した虎助はすぐさま返信をしなければという思いに駆られたが、どう伝えれば良いのか分からない。


 ずっと夢を見ていた。

 もしかするとどこかの世界に飛ばされていたかも知れない。

 言えるわけがない。そんな理由で学校をサボっただなんて。


 幸い、海外に長期滞在中の両親からメールや着信は入っていない。

 生徒の一人と連絡がつかない事態を学校側は思春期特有の、ごくありふれた現象だと理解しているようだ。

 ――――もしくは、担任が酷い思考停止に陥っているのか。


(……)


 液晶から親指が離れ、やがて画面は黒く染まる。


 他人の声の入らない世界は静かだった。

 自分を気に掛ける幼馴染も、口うるさい委員長も、甘えさせてくれる年上も。

 誰の言葉も目や耳に入らない。


 ふと、あの感覚を思い出す。

 銃口を向けられ、きゅうっと眉間が窄まるようなあの感覚。

 

 異世界へ転移したのが事実だったとしても、虎助の記憶に劇的な何かは残されていなかった。

 だが死への恐怖だけは肉体が覚えている。

 人はああして大した理由も、特別な事情もなくあっさり死ぬのだ、と。


 好きな人に好きと言えないまま。

 親に別れの言葉を残せないまま。

 死はあまりにも唐突に訪れる。


「あー……」


 途端、虎助は自分が今やっていることに対して疑問を覚えた。


 余暇に楽しむ本も、ゲームも、音楽も、映画も大好きだが。

 それらは誰かが仕事で作っている『モノ』に過ぎない。

 虎助が娯楽に浸る時間というのは、娯楽の作り手に自分の人生を捧げる時間に他ならない。

 つまり自分の人生を生きている時間ではない。

 虎助は常々そう考えている。


 だが脈のありそうな異性と他愛のない会話を延々と続ける生ぬるさが果たして「自分の人生を生きている時間」だと呼べるのだろうか。

 そう考えた時、虎助は釈然としない思いを抱く。

 結局、自分は誰かの人生を潤すために自分の人生を消費していたに過ぎないのではないか、と。


「……」


 虎助は椅子を引き、立ち上がる。


 予習。復習。

 学校への連絡。両親への連絡。

 冷蔵庫で賞味期限を迎えつつある牛乳。

 何もかも、一度忘れることにした。


「海にでも行くか……」 


 虎助は人付き合いが好きだった。

 その理由が「人と付き合っている間は自分の人生を忘れられるから」だったことに彼はようやく思い至った。


 窓の外には春の夜が続いている。

 甲斐路虎助かいじとらすけは自分でも訳の分からない焦りに衝き動かされ、夜の海へ向かう。

 向き合うべき人生が自分と共にあることを知っているからこそ、海へ。

 


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 オレンジマスカットの午後は優雅な紅茶で始まる。

 花弁の一つに人間一人が居住できるほど大きな『鈴蘭ハウス』の中で彼女は温かいポットを見つめていた。

 長い髪は光沢のある深緑で、訳もなく物憂げな表情をしている。


 いや、訳はあった。


『どうしたの? 最近少し変ね』


 頭の中で響くのはスミレ色を想起させるロザリオビアンコの声。


『今日もブレイズカーネーションを早々に使い果たして』


「でもそれで良かったんだよね?」


『……結果的にはね』


 その日の戦いでオムはロザの指示より早く巨蜂の大群へ飛び込んだ。

 普段の彼女と同じ猪突猛進。

 だが以前に比べ仲間である精霊人を護ろうとする意識が強くなったように感じられる。


 その原因をロザは知っている。

 オムは罪悪感を覚えているのだ。

 あの異世界での殺し合いの最中、ロザに判断のほとんどを委ねていたことに。


 それは帰還した後のオレンジマスカットに積極性をもたらした。

 彼女は内なるロザがいなくなってしまったかのように自らの頭で考え、失敗し、行動するようになっていた。

 妹のように思っていた少女の成長を嬉しく思う反面、ロザはいささかの寂しさも覚えていた。


「変なのはロザもでしょ?」


『私が? 何で?』


「今日はロザだってボム空っぽだもん」


『……』


 オレンジマスカットもロザリオビアンコの湿った感情を感じ取っている。


 黒紫の少女は悔いていた。

 あの少年と金髪女と対峙した時、必殺の三十一次元殺を持ちながら死を迎えてしまった自分自身の計算高さを。


 遮二無二しゃにむにボムを放っていれば二人を沈めることができただろう。

 その上でオレンジマスカットを前に出し、自分が思考の相談役として機能していれば良かったのだ。

 だがそれができなかった。

 彼女は体力を節約し、ボムを温存しようとした。

 未来に過剰な期待を寄せ、現実の厳しさを甘く見ていた。

 結果、オム諸共死ぬこととなった。


 異世界から帰還したロザは以前よりもずっと無心で戦うようになっていた。

 計算高くありながら、生への貪欲さを抱くようになった。

 冷静でありながら、熱い。

 言葉にこそしなかったが、オムは以前にもましてロザに敬意を抱くようになっていた。


 二人は相変わらず二人のままだ。

 オレンジマスカットであり、ロザリオビアンコでありながら、己に欠けている要素を互いの振る舞いの中に見出すようになっている。

 それが好ましい変化であるのか否か、今の二人には分からない。


「オム! オム~~!!」


 オレンジマスカットは鈴蘭の家から首を突き出す。

 顔なじみの精霊人せいれいじんが一人、血相を変えて飛んで来るのが見えた。

 背中には薄羽が輝いている。


『また出たのかしら。一日に二度だなんて珍しいのね』


「きょ、巨蜂に人が! 人が乗ってるの!」


「!?」


「は、半分蜂の女の子が! それに巨蜂がそれを追いかけてて……」


 二人は思考の水槽越しに頷き合う。

 窓から飛び出し、急降下。

 そして地面と水平に飛び、太陽目がけて急上昇。


 未だ凪を見ない世界の中を、少女は強く羽ばたく。



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 彼が生まれた時は3%だった。

 今や12%。


 税金の話ではない。

 全世界の犯罪において人工知能が占める割合だ。

 昔は100人犯罪者が居たとして、3人が架空存在だった。

 今は100人の犯罪者のうち12人が血肉を持っておらず、手錠を嵌めることができない。


 ――――その割合も少しぐらい減ったのではないか。

 夜坂北光よるさかほっこうはそう思う。


『北光』


 コクピットでうたた寝をしていた北光は薄く目を開けた。

 脳波を検知した鉄の棺桶に薄く光が灯る。

 ひらりと目の前を舞うのは黄緑色のドレスの少女。


「……どうした?」


『眠れなくて』


 大きな枕を抱きしめたミュスカデは恥じらいながら上目遣いを見せる。


『一緒に……寝てくれませんか?』


「お前の電源ボタンはどこだったかなー」


 北光が銀氷天ぎんぴょうてんのシート下部をまさぐると少女はデフォルメされた驚きの表情を見せる。


『ちょ、ちょっとちょっと! そういうことじゃありませんよ! 私が居ないと北光は一分で撃墜ですよ?!』


「はあ? 一分ってことはないだろ! もうちょっと粘るっつの」


『いーえ! 一分です! 私の電源を落とすなんて自殺行為です!』


 だが今の状況は自殺に近い。

 北光はそう思う。


 二人が身を寄せているのはアルゼンチンだったかマダガスカルだったかの森の奥地だ。

 犬の遠吠えが聞こえ、時折ぎゃあぎゃあと鳥が悲鳴を上げるほどの未開の地。


 ――――夜坂北光は追われていた。


 魔女ナイアガラに施された「魔物の手足と翼」のせいではない。

 それがもたらした莫大な戦果のせいで追われている。

 誰も彼もが北光と、その愛機を欲しがるようになっていた。


 理由はそれだけではない。

 学習機能を持つ硬化光体のオペレーターは「知性の平準化」と称して起動から一定期間が経過するとメモリーを物理的に消去される運命にある。


 北光はそれを知らなかった。

 ミュスカデはそれを知っていた。

 二人はすれ違い、一時的に離れ離れになった。


 だが少女のメモリーが消去されそうになっていることを知った北光はレンチと銃を手に軍施設の格納庫で暴れ回り、銀氷天諸共ミュスカデを奪取した。

 そして人類からも人工知能からも敵視される羽目になった。

 

 これを自殺行為と呼ばずして何と言うのか。


(ああ。自殺じゃなくて『心中』か)


 北光は自嘲する。

 だがそれでも――――


『私と一緒に来たこと』


 出し抜けに、ミュスカデが呟く。


『後悔、していらっしゃいますよね』


「してねえよ」


『嘘をつかないでください。センサーで分かります。あなたは後悔している』


 少女は悲しそうに睫毛を伏せ、事実を述べる。

 人工知能に嘘は通じないのだ。

 それも長年連れ添った相手ならなおのこと。

 ミュスカデは北光の感情の襞の隅々までもを熟知している。


『今からでも遅くありません。機体と私を破棄すれば北』


「俺が後悔してるのは――」


 割り込んだ北光はミュスカデに顔を寄せる。

 彼女の首根っこを掴んで抱き寄せることはできない。


「――どうしてもっと早くこうしなかったのか、ってことだけだ」


 北光が戦うのは度を超えた正義を振りかざし、人類を裁こうとする人工知能だった。


 だが度を超えた正義を持つのは人工知能だけではなかった。

 少なくとも北光を懐柔しようとした軍の上層部や有力者の瞳の奥には「それ」があった。


 金。

 数字。


 金。

 数字。


 金。

 数字。


 人類は人工知能よりも遥かに粘ついた「定規」を持っていた。

 彼らが信奉し、振りかざす「正しさ」こそ北光の目には度を超えているように映った。

 人工知能が自分達の掲げる正義を疑わないのと同じく、人類はカネと数字を疑わなくなっていた。


 気に入らなかった。

 自分はこんなもののために戦っているのか、と。

 こんなもののために犠牲を強いられる命や犠牲を強いられる人生があっていいのか、と。

 

(……)


 異世界で起きた出来事を思い出す。


 あの殺し合いの最終局面で、北光はジンと組み、後にジンを裏切った。

 その行為を思い出すたびに身悶えするほどの破廉恥さを覚える。

 ジンに命を救われていながら北光は迷い、悩んだ末に彼の人間性に異を唱え、あまつさえ罵倒したのだ。勇者にしてみれば酷い裏切りに映っただろう。


 だがこの記憶こそが今の北光をかろうじて支えている。


 あの時、不承不承でもジンと組み続けていればセキレイとガルナチャを難なく殺し、勝利を手にすることが出来た。

 勝者特権でナイアガラも復活し、今と同じ万々歳の結末が待っていたに違いない。

 それこそが北光にとって最も正解に近い選択だったのだろう。


 それでも、北光はジンを赦せなかった。

 利得を通り越したところで夜坂北光は命を軽んじる男を拒んだ。


 結果として無惨な死を迎えたが、あの判断が間違っていたとは思わない。

 心を押し殺してジンと共に戦い、勝利を迎えていたとしても、やはり今と同じ破廉恥さを覚えていただろう。


 合理に流されることはたやすい。

 このご時世、人工知能がいくらでも「合理的な道」や「正しい道」を示してくれるからだ。

 だが正しさは必ずしも善ではない。そしてまた美でも無い。


 時に迷いや躊躇、矛盾や葛藤を生み出す原因ではあるが。

 計測不能の観念こそが人間を人間たらしめている。

 北光はそう信じている。


 ジンファンデルには相乗りすべきだった。

 ミュスカデは見捨てるべきだった。

 そんな「正しさ」に夜坂北光は唾を吐く。


 静寂を切り裂く警告音が思考を中断させる。


『北光! エマージェンシーです!』

 

 メインカメラを見れば銀氷天ぎんぴょうてんとやや形の異なる鎧武者が四体、フォーメーションを取りながら飛翔するのが目に入る。

 追っ手だ。


「見りゃ分かる!」


 北光はすぐさま銀氷天を待機状態から復帰させる。

 エンジンは既にほかほかでご機嫌だ。

 魔物の脚で立ち上がり、魔物の翼で風を打ち、光片子デミパーシャルフォトンと有機体の混成機が空へ。


 切りかかる一体の太刀を魔物の腕で防ぎ、そのまま地面へ叩き落す。

 触手の腕が一体の薙刀を掴み、機体諸共横薙ぎに振り払う。


 三体目と四体目は光の槍を構えており、思い切り片腕を引いていた。

 次の瞬間、鋭い切っ先を持つ光片子スピアーが飛来する。


「何とかしろミュスカデ!」


『お任せを。その前に紅茶を一杯いただいても?』


「ぶっ壊れてんのかポンコツオペレーターが!」


 逆境に、しかし、二人は笑った。


 破砕された光片子が陽光を受けて瞬くように輝く。

 光の雨の中を銀氷天ぎんぴょうてんが飛ぶ。



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 紅島甲州べにしまこうしゅうはスランプを感じている。


 このところどうもうまく怒れない。

 以前は肩がぶつかるだけで殴り合いに発展したものだが、最近では悪態をつくのがせいぜいでそれ以上の感情が湧き上がって来ない。


(……)


 彼は死の直前の記憶を覚えている。

 不死の骸骨戦士と殺し合ったあの記憶を。

 果てしなき闘争の最果て、彼は燃え尽きて黒い炭となった。

 戦っている最中は僅かな充実感を覚えてはいたが、結局のところ、快力オルゴンの奔流に身を任せた甲州は炭となって死ぬのだ。

 惨めなほど真っ黒焦げの炭になって。


 復讐が成就しようと、すまいと。

 義姉を失おうと、そうでなかろうと。

 怒りに身を任せた甲州はいつか無様な炭に変わり果て、そして死ぬ。

 

 終わりを知ったことで甲州の意識は変性した。

 火炎と憤激の感情に対してある種の畏敬の念すら感じていた彼は、自分の快力オルゴンに「破滅」を感じるようになっていた。


 ――破滅。


 師父に授けられた拳は人間の魂の表現だ。

 喜怒哀楽を包み隠さず、魂の色彩を拳に乗せるのが、信じるもの少なき甲州の「武道」だ。

 師父より継いだ武の道は、武の技は、断じて「破滅」をもたらすようなものではない。

 それでは俺の拳は――――兵器と変わらないではないか。


 では炎とは何だ。

 怒りとは何だ。

 拳とは。

 武とは。


 紅島甲州の胸の奥では絶えず炎が燃えている。

 懊悩の炎が。


「……」


 ぎいい、と闘技場の鉄扉が開く。

 彼女シーが作った偽りの闘技場ではない。

 銅鑼どらの音と共に闘士が入場し、血と汗と涙を流し、研ぎ澄まされた快力オルゴンの力を競う神聖なる闘技場。


 砂地へ一歩踏み出した甲州は畏れの混じる歓声に包まれた。

 既にトーナメントは準決勝。

 ここまで勝ち抜いたのは皇帝シャールドンの親衛隊にすら匹敵する猛者ばかりだ。


 向かい側の鉄扉から姿を見せた相手を見据える。

 羽兜を被った黒いセーラー服の少女を。


「……」


 桟敷さじきで闘技場を見下ろすシャールドンは翡翠の姿を認めるや、目を閉じる。


 彼女を応援したい気持ちはある。

 だがそれをすればこの大会の神聖性は損なわれ、身贔屓をした皇帝の威信もまた損なわれるだろう。


 彼は自分の強さに揺るがぬ自信を持っている。

 惜しむべくは精神が肉体に追いついていないこと。


 彼は彼の理想とする皇帝像に一日も早く追いつきたいと考えている。

 ――――否、追いつかねばならない。

 だが理想的な皇帝とは理想的な為政者であり、理想的な公人でもある。その男はあらゆる個人的な感情を諦めなければならないだろう。

 たとえそれが身を焦がすような恋心だったとしても。


 彼は万事に全力を以って臨む。恋であれ、まつりごとであれ、「程々に済ます」などということはできない。

 この慕情を殺してまで国家に身を捧げられるのか。

 あるいは、皇帝の務めを犠牲にしてまで儚い恋に生きることができるのか。

 シャールドンもまた、胸の中に懊悩の炎を抱えている。


 彼の傍に控えるセキレイは皇帝の感情を感じ取りつつも黙っている。

 紫色のスカーフを腕に巻いた彼女が抱えているのは、湖面にも似た静かな寂しさだけだった。


「翡翠」


「……」


 甲州に名を呼ばれた翡翠は答えず、ただ顔を伏せる。

 無言のまま、抜刀。

 刀身を氷が包む。


 荒れる戦いになるだろう、と観客席に立つ稲穂秋鈴いなほしゅうれいは予想する。

 義理とは言え姉弟だ。

 それに二人とも強大な快力オルゴン使い。

 観衆は大喜びしているが、秋鈴は罪悪感すら感じていた。


 何より彼の心を締め付けるのは、二人の戦いに決着がついた瞬間、クーデターが勃発することだ。

 シャールドンが翡翠に思いを寄せていることは周知の事実であり、彼女が勝とうが負けようが皇帝は必ず心を乱す。そこに反体制派がつけ込むのだ。

 言い換えれば、紅島甲州べにしまこうしゅう狩峰翡翠かりみねひすいの戦いは汚される運命にある。


 悪く思わないでください、と秋鈴は心の中で懺悔した。


 皇帝シャールドンは独善的過ぎる。

 彼は派閥や政争といったものを軽んじ、独断で幾つかの組織を解体し、長年放置されてきた法の抜け穴を平然と補修してしまう。

 あの皇帝は驚くほど既得権益に疎く、老人たちに無遠慮で、犯罪組織に容赦がない。


 皇帝は旗と同じだ。

 強い風が吹いたらバタバタと音を立てて揺れ、風がやんだら萎れてしまえばいい。

 その役割は国民の視線と好悪の感情を集めること。ただそれだけ。


 まつりごとに首を突っ込む皇帝など不要。

 それが秋鈴を含む多くの国政関係者の考えだった。

 

 稲穂秋鈴いなほしゅうれいは異世界で経験した「皇帝を殺す感触」を思い出す。

 息の根を止め損なったが、秋鈴は皇帝に致命傷を与えている。

 次は逃がさない。

 確実に仕留める。


 断罪の快力オルゴンは静かに彼の胸で燻る。

 断罪すべき相手を見定めるかのように。


(……)


 狩峰翡翠かりみねひすいは罪悪感を感じている。

 ただし彼女はその感覚に心地良さを覚えている。


 悪事が真の甘露をしたたらせるのは、それを実行した瞬間ではない。披歴ひれきした瞬間だ。

 悪事とは露呈を以って完成する。

 彼女の犯した罪悪もまた然り。


 『お前の師父を八つ裂きにしたのは私だ』。


 その一言で甲州はどれほど怒り狂うだろう。

 そしてどれほどの言葉の暴力と身体の暴力とを以って翡翠を傷つけ、辱め、痛めつけようとするだろう。

 きっとズタボロになった翡翠は生存本能の発露と共に心の奥にしまい込んだ感情を炸裂させることになる。

 静穏の快力オルゴンを保つために溜め込んでいた悲喜こもごもの感情を、一気に解き放つ。

 ――――さぞ、甘美な体験となるだろう。


 脳が白桃の汁より甘い液体に満たされているのが分かる。

 翡翠は神にすら知られることのない喜悦に舌なめずりした。


 死を経ても変わらない狂熱は黒く甘い炎となって彼女の胸で燃えている。


「……」

「……」


 甲州が肩に炎の翼を広げる。

 翡翠は青眼の構えでこれに応じる。

 幾つかの炎が風を伴う歓声に揺れていた。


 試合開始が宣言される。



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 丘に立つガルナチャは小さな町を見下ろしていた。


 今や彼のレベルは50を越えている。

 秘精ヌミノースを連ねる戦いでは負けなしで、得られる経験値でレベルアップすることも稀になっていた。


 そして彼は勝利によって得られるものに価値を見出さなくなっていた。


 金はそもそも目的としていない。

 経験値やレベルアップはもう十分だ。

 人に褒めそやされても何一つ嬉しくない。

 ガルナチャの過剰なまでのレベルアップはあの異世界へ連れ去られたことで得た、いわば「ズル」に過ぎないからだ。


 方針を見失ったガルナチャはせめて世界の瑞々しさを堪能しようと、幾つかの街を巡ることにした。

 そしてあてどなく街から街を渡り歩く内に少年は知られざる世界の一面を目の当たりにした。


 ――――秘精ヌミノースを使った犯罪だ。


 食い逃げ、窃盗といった軽微なものもあれば、殺人や強盗といったおぞましい事件も発生している。

 秘精ヌミノースは万人が操れるものではないため、対応できる人間が限られる。

 それにこの世界は気候も人の気性も穏やかなため、治安警察がまともに機能していない。

 下手をすれば彼らは昼日中から路上で秘精ヌミノースの宝玉をぶつけ合っているのだ。

 その隙をついて犯罪に走る者が少なからず存在している。

 そのことをガルナチャは初めて知った。


 宝玉を操るガルナチャは怒りと共に彼らを打ち据え、警察に引き渡した。

 感謝する者もいたし、しない者もいた。

 波風を立てないでくれと言う者もいたし、すごいねえと褒めてくれる者もいた。

 そのどちらにもガルナチャは耳を貸さなかった。


 少年は静かな闘志と共に街から街を渡り、悪辣な者たちと対峙し続けた。

 否、対峙し続けている。


「……」


 未来への明るい見通しではなく、苦い記憶が彼を駆り立てる。

 

 少年が異世界で直面したのは人間の負の側面を象徴するような出来事ばかりだった。

 人と人との醜い争い。

 不毛な殺し合い。

 憎しみの連鎖。

 彼が慕ったセキレイですら、オレンジマスカットを平然と闇討ちしていた。


 それらの出来事はガルナチャを失望させるのに十分過ぎた。

 人間の臭みを嫌というほど味わった彼は未来を悲観するようになっていた。


 だが同時に、勧善懲悪の必要性を思い知った。


 正しき力が振るわれなければ人は人を傷つけ、人は人と争う。

 人は人から奪うし、人は人を踏みつける。

 誰の心にも悪の種が眠っている。

 それは外界からのちょっとした刺激で芽を吹き、世にもおぞましい蔓を伸ばしてその人間を支配する。


 この平和な世界で声高に勧善懲悪を叫ぶことが愚かな振る舞いだということは理解していた。

 ジンファンデルやデラウエアと違い、この世界の住人たちは秘精ヌミノースの温もりに包まれている。


 だが、だからこそ危険なのだ。

 彼女シーのような邪悪な者が訪れれば彼らは為す術もなく蹂躙されてしまう。

 現に今、ちっぽけな犯罪者すらまともに取り締まれていないではないか。

 

 ガルナチャはこの平和な世界でただ一人、勧善懲悪を謳い続けることにした。

 異世界で経験したあの惨めさや苦しさを自分以外の誰もが味わわずに済むように。

 ――――それがセキレイの言う「いい男」の生き様だと信じて。


「……」


 風が女の手のように頬を撫で、ガルナチャを通り過ぎていく。

 背にトンファーを吊るした少年は踵を返し、世界のどこかへと旅立つ。



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 善意の行き届いた世界は疲れる。

 心地良いが、疲れる。


 悪を厳しく断罪するのは結構だが、人はもっと不善に寛容になった方がいい。

 彼、ジンファンデルはそう考える。


 ――――否、そう考えていた。


「……」


 酒場のテーブルにブーツの踵を乗せたジンは干した肉の細片を口内でもごもごと噛んでいる。

 それがすっかり柔らかくなっていることにも気づかないまま。


 耳が拾うのは酔っ払い共の濁った笑い声と酒に焼けた女の歓声。

 場末の灰色がジンを優しく包もうとする。


「これ」


 ナイアガラの箒で脇腹をつんと押され、勇者が我に返る。


「あー……?」


「何が「あー」じゃ。シャキッとせぬか、シャキッと」


「そんな野菜じゃあるまいし……」


「あいや、ジン」


 隣のテーブルで額を寄せ合っていたリースリングとシュナン・ブランが彼の方を見る。

 カルガネガは全身を覆うローブ姿で骸骨の肉体を晒さないようにしていた。


「やはりザウォル教団の本部はこの街にあると見て間違いないようだ」


「見て。例の儀式殺人の発生地点をこうやって線で結ぶと――――」


 二人は地図を示した。

 己に課せられた使命――――否、幾つかの特権と引き換えに請け負った『仕事』を思い出したジンは瞼の上から眼球を揉み、彼らの話に耳を傾けた。

 十分ほどの話し合いの末、方針が固まる。


「奴らはここで仕留めたい。挟撃だな」


「あいや。ではパーティーを二手に分けねばな」


「ふん。妾が突っ込んでばばーっと片付けてしまえばそれで終わりじゃろ」


「それで終わったためしが無いんだが、どっから出て来るんだその自信は」


「……」


 むっつりと黙り込む魔女をよそにジンはてきぱきと話を勧める。


「ザウォル教団には失伝魔法を使う奴が居る。バランスが大事だ。俺とシュナン、カルガネガが東口から。リースとババアが西口から攻める。……リース、不備はあるか?」


「あいや。妥当だ」


 では、と早くもリースリングが立ち上がる。

 突剣が腿をひたひたと叩き、鍔広帽が頭に乗った。



「っざっけんなてめえ!!」



 次の瞬間、どこかの席でテーブルがひっくり返り、怒号が飛び交う。

 びくりと何人かが身を震わせたが、敵襲ではないようだ。


「~~~!!!」


「……――――!」


 濁った罵声。

 どうやら一人の子供が酔っ払いにぶつかってしまったらしい。

 丁稚か、物乞いか、それとも靴磨きの類か。

 十歳にすら達していない少年が平謝りするのが見えた。


 何人かの酔っ払いが太い腕で少年の首を掴む。

 娼婦たちはきゃあきゃあと下品な鳥を思わせる声で囃す。


「っ。それにしてもうるさいところですね」


「あいや。やむを得まい。表通りの施設は教団の息がかかっている可能性がある」


「じゃの。ではく出ていくとするのかの」


「……」


 カルガネガは腕を組み、大男たちが子供を吊るし上げる様を見つめていた。


 酒と犯罪行為は相性が良い。

 酒は判断力を鈍らせ、理性を希釈し、犯した罪の言い訳にもできる。


 男たちは明らかに酩酊している。

 少年は数人がかりでテーブルに押さえつけられ、まず悲鳴も出なくなるほど拳で滅多打ちにされていた。

 何人かが椅子の脚を折り、嫌らしい笑みを交わす。

 犬を連れて来る、などという声も聞こえた。

 店主はテーブルが血で汚れることに難しい顔をしていたが、酒を注ぐ手を止めるつもりは更々無いようだった。


(……)


 強きが弱きを弄ぶ。

 場末の日常だ。

 誰もそれを気に留めることはない。

 ジンの仲間である三人も酒場の階段を降りていく。


 姫騎士シュナン・ブランは殺人教団のことで頭がいっぱいになっており、小競り合いには目もくれない。

 魔女ナイアガラは強大な魔法使いであることを知られたくないので、俗世の些事には口を出さない。

 生まれついての戦士である剣客リースリングは少年の弱き性根を嘆くばかりだ。

 骸骨戦士カルガネガだけは無言でジンを見たが、すぐに三人の後を追う。


 ジンは四人に続いて酒場の階段を数段降りていく。


「……」

 

 彼は勇者だ。

 勇気を奮うことが義務付けられている。


 だがそれは国王との契約の範囲内でのこと。

 仲間を危機に陥れる者、国家を脅かす者の前でのみ有効な契約に過ぎない。


 見返りのない場面で――――





 『あなたの背中を見て勇気を貰える人っているんですか』




 ひと月ほど前、異世界でジンの胸を刺した言葉。

 それは未だ彼の胸に刺さったまま、ちりちりと痛みを発し続けている。


「……」


 勇者を名乗り始めてから、もうずいぶんと日が経った。

 シュナン・ブランの素性が知れたり、ナイアガラを仲間にしたことでジン一行の名は以前にも増して知られるようになった。

 だが行く先々で驚かれることはあっても歓待された記憶はほとんどない。

 爵位が授けられるなんて話も聞かない。

 子供達に握手をねだられたことも。


 ジンはそれが悪いことだとは思っていない。

 務めを果たし、見返りを貰う。

 過不足なく国王と、人間社会と関係性を築く。

 それで十分だ。


 ――――十分だと思っていた。


「悪い」


 ジンの声にリースとシュナンが振り返る。


「財布、置いてきちまった」


「何じゃ。引き寄せてやろうか?」


「……」


 カルガネガが魔女の肩を掴み、それを制止する。


「む? 何じゃ何じゃ」


 骸骨戦士が首を振り、先へ進むことを促す。

 リースとシュナンは不思議そうな顔をしていたが、肩をすくめた。


「あいや。では先に行っているぞ」


「気を付けてくださいね。財布はともかく、印章を失くしたら一大事なんですから」


「ああ。すぐ取って来る。先に行っててくれ」










 たった今下った階段を登ったジンは少年の汚れた下着がずり下ろされ、角材を持った酔っ払いが大笑いしている光景を直視する。

 女たちは先ほどよりも甲高い声で笑っている。


(せー、のっ……!)


 ジンは鞘を払った長剣を振りかぶり、テーブルを真っ二つにする。

 があん、と床を叩く音で誰もが彼に気付いた。


「よお」


 からんからん、と半月状になったテーブルが床を叩く。


「……その辺にしとけよ。いい歳の大人だろ、おたくら」


 ジンはいささかの気恥ずかしさを覚える。

 いつの頃からか、彼は物事に真剣に向き合うことに対して恥ずかしさを覚えるようになっていた。

 必死になることにも。

 正しさを謳うことにも。


「~~~……!!」

「~っ、――――!!」


 誰何すいかの声が酒瓶と共に飛んでくる。

 数種類の酒とつまみを浴びたジンは小さく笑った。


「俺か? 俺は――――」



 勇者を名乗り始めてから、もうずいぶんと日が経った。

 世界から巨悪の芽は少しずつ取り除かれ、国王は日増しに血色を取り戻していった。

 だから自分はいっぱしの勇者なのだとうぬぼれていた。


 ――――だが違う。

 たぶん、違う。


 あのガルナチャの言う通り、ジンはただただ己を鼓舞するばかりの男だった。

 これでは少し知恵のついた怪物モンスターと変わらない。

 勇気とはおそらく、受け継がれて初めて意味があるのだろう。


 今からでも間に合うだろうか、とジンは誰にともなく問いかける。


 自分はもうずいぶんと汚いことをやってきたし、冷酷な判断も下してきたが。

 今からでも勇者を志して良いだろうか。


(……ま、いいよな。たぶん)


 ダメと言われたらそれまでだが、志した以上はやめるわけにもいかないだろう。


 とうとう木の棒を掲げた酔っ払いが突撃してくるのが見える。

 額から流れた葡萄酒が血と混じり合って赤い筋を作る。

 舌なめずりをしたジンは軽い命を前に、笑う。



 こんなダメ男が勇者を志すこともあるから――――


 ――――世界はもっと、不善に寛容であるべきなのだ。


  

「俺は勇者だ」



 そんなことを考えながら、剣を構えたジンファンデルはテーブルを蹴って跳ぶ。









 <了>


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マイナスファンタジー icecrepe/氷桃甘雪 @icecrepe

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