保育園で事務員として働く「私」と、そこへ棲みついている子どもの幽霊「ゆう」。不思議な交流を深める二人が行き着く先とは。
「私」のナレーションが一貫して内省的で、あきらめのような体温の低さを感じます。それは彼女が自分の過去に対して背負う罪悪感のせいであり、それが本人の心にブレーキをかけているから。そんな私の心の隙に、「ゆう」は入るべくして入り込んでしまったようにも見えます。
幼女の小さな手が私にそっと触れ、柔らかいあたたかさが伝わる。モチーフのように繰り返し現れるこの光景が非常に印象的で、こちらにもその幼い体温が伝わって来るかのようです。
保育園の黄色い帽子に顔を隠した女の子もまた、そのまま心を隠した子ども。臆病な二人が互いに近づき、それぞれにとって離れられない存在へと変わっていくさまが、移り変わる季節とともに丁寧に描かれます。
本当でないものがほんとうへと変貌する。物語の辿り着く境地は、優しい狂気と言えるのかも知れません。これをホラーと取るか、ハッピーと取るか。そこは読み手の自由に委ねられています。
秋の夜長にもふさわしい、読み応えのある中編です。
どこか遠慮をしながら保育園の事務職として働く主人公と、その保育園に住まう園児の幽霊との関係を描いたお話です。
独身女性の主人公は、職場が保育園であるものの、子供が苦手。何かに遠慮をするように、日々、慎ましくひとり淡々と仕事を進めます。
そんな彼女の前に、いじましいほど物分かりの良い児童の幽霊が現れます。互いに距離を取りつつ、許されたささやかな行為を積み重ねる2人。その関係は、時を経て徐々に変わってゆきます。
互いの隙間を少しずつ埋めつつ、ものがたりの最後に2人がたどり着いた場所とはーー。
しっとりとして、物悲しげな語り口。丁寧にエピソードを積み重ねて2人の関係を描く場面の心地よさ。そして、ものがたりの結末の解釈を、読む側に委ねる終わり方。良いですね。
いろいろな方に読んで頂いて、ああだこうだと話してみたくなる余韻の残るお話でした。
ちなみに私はといえば、このお話はホラーですとか、ハッピーですとかではなくて、仕方ねー奴等の仕方ねー話と感じました。ふざけんなよ物凄く面白かったです。
皆様も是非ご一読を。