【短編】球体工場
笹倉
球体工場
私は工場に勤めている。私の業務は、言うなればライン作業である。材料が流れてくるので、それを真ん丸の球体に加工する。
と説明するのは簡単だが、実際やってみるとこれがなかなか大変な作業である。
材料といっても、実際のところ、元々の形が様々で加工は簡単とは言えない。尖っていたり、凹んでいたり、ひび割れていたり……一つとして同じものはなく、例を挙げればキリがない。これらを最終的に綺麗な球体に成形するのが、私たち工場職員の仕事だ。コツとしては「ただ無心になること」一択である。無心になって尖った部分を鉈で折り、凹みや出っ張りをヤスリでなくし、ひびを埋める。
一見すると、元から完成品にまで成形できなさそうな材料も中にはあるが、工場の方針として、「どんな材料であっても、全力で完成品に近づけるために尽くそう」というものがあり、私たちの腕と根性が試される。ただのライン作業だと舐めていると、やっていけない職だ。実際、私は何人も辞めていくのを目にしている。
当たり前の話ではあるが、顧客は完璧な完成品を求めている。より綺麗で、見栄えが良く、歪な部分がない完成品だ。だから、私たちは出荷ギリギリまで球体をヤスリで削り、磨き上げる。一点の曇りもないように慎重に。傷がないように万全に。
そうこうして、完成品を出荷するとき、私たちは球体に笑顔で声をかける。
「卒業おめでとう」
「ありがとう、先生」
言葉を発する完璧な球体の数々。私は頷く。少し泣きそうになる。そして、最終的には泣いてしまうのが常だ。色んな感情が入り混じって言葉にならない。そんな中、一つだけはっきりとした感情がある。素晴らしい完成品を出荷できることが誇らしいのだ。
後ろ手に鉈を隠して、私は涙を拭う。
さあ、早く仕事に戻らないと。
次の材料がやってくる。
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます