名前も知らぬ花なれど

作者 くすり

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★★★ Excellent!!!

「穏やかに、静かに心の口を閉ざして、黙って目の前のものを見つめることは、本当はとっても難しいことなんだと、わたしは思います」

この一文は、ただ花に対して言った言葉ではなく、あらゆるもの、あらゆる生きるものに対する言葉のようです。

何かを見る時。人はそれに説明を求めてしまいます。
例えば美術館で、作品よりも先に説明文を読んでしまうような。
しかし、それよりもまずその作品と対峙して心に映して、ただ静かに自分の中に湧き上がってくるものにじっと耳を傾けているほうがよほど知ることが出来るのだと思えるのです。
それが後になって読んだ解説文とは違った受け取り方であったとしても……。どんなことも人それぞれの五感を通してその人なりのフィルターをかけて受け取るものなのですから。

私は写真を撮ることを趣味にしていますが、冒頭の言葉を読ませて頂いた時にまさに写真を撮るということはこれだと感じました。
花の名前には詳しくありません。ただ野に咲く花も例え枯れた花であっても、美しいものは美しい。それをどう切り取ろうかとレンズを向ける時、私は私の心の中でその花と対話しているのだと思えます。

名前は知らないほうがいいのかもしれません。
花園の君。
しかし、彼女の名前を知った彼がこの後に自分を変えていくことが出来るのでしたら、その名前を呟くことが彼の歩を進める力となるのでしたら……。
耳元で囁かれた名前。どんな名前なのでしょうね。
彼女は彼のナイチンゲールなのでしょうか。

繊細で揺れ動く主人公の心に寄り添った、ゆらゆらと読者を揺さぶるような小説。美しく儚く、しかししっかりと根を張った植物たちのような、心を優しく撫でていくお話です。

★★★ Excellent!!!

 大学一年、高校生までの多感さはないけども、社会人のようにすれてもいない。そんな時期の恋心が率直に描かれています。
 人は大人になるにつれ、物や事象、気持ちにも名前をつけてわかったつもりになっていきます。
 ただ、知識が増えることで見えなくなる、感じなくなることが増えるのもまた確かな事。
 この短編のラストのように、自分なりの答え、名前を探してみるのもいい、そう思いました。

★★ Very Good!!

幼い頃、黙って目の前の物を見つめていました。
情報を調べると言う事を知らなかったからです。

高校に上がる頃、黙って見つめることが出来なくなりました。
情報を求めたくて仕方がなかったからです。

そして今、黙って見つめることがまた出来るようになってきました。
情報のみが大事なわけじゃないと理解したからです。

それでも、自分が特別気にいった物の情報は求めますし、それが自然なことだと思っています。

ですので、彼女にとって特別である花の情報を求めようとせず、ただその姿を見つめ続けていられるその心理に、興味を抱かずにはいられません。




★★★ Excellent!!!

 名前を知ることをテーマにした恋愛小説でした。一万字程度ですっきりと読めて、非常に良い作品だと思います。

 名前を知らないからこそ美しいという側面。名前を知ってしまうことで生まれる変化。観測によって対象が変化するなんてどこかの物理学の話を思い浮かべてしまうのは自分にロマンが足りないからでしょうか。読む時には名前というものの意義について少し考えながら読むのも良いかもしれません。

 青年の恋心と少女の不器用さと。小さくて穏やかな世界に、幾ばくかの儚さを匂わせる綺麗な作品でした。


 まあそれはそれとしてだ。

 自分の手の中にあったものがすり抜けていく美咲ちゃんの曇り顔が! まるで瞼の裏に見えてくるようで非常に性癖にマッチした! 以上!