第9話 造花から花へ
5人のその後のことを、記さなければなりませんね。
まず先述しておきたいのは、2016年現在、元美人十音所属のあの5人の嬢の中で、いまだ「風俗」に勤しんでいる人間は1人もいない、ということです。
定期的・不定期的問わず、いかがわしい類の出会い系サイトや、風俗店と関わることも一切なくなったようで、それはまさに、完全なる「卒業」。
不特定多数の男性の筆で絵の具を混ぜ合わされてできた造花の鮮やかな色は、もう消えました。
今、5人はおのおのただ1人の男性の色に染まり、穏やかな風に揺れながら、凛と咲いております。
過去のことなどまるで何もなかったように、海のように秘密を胸の奥に沈めて、明るく元気に生きる。
・・・それが「いい女」というものです。
美人十音、閉店後・・・。
店長だった愛子は、待機所に連れ込んだ「あの」男と見事に結婚まで至りました。事務所近くのワンルームで同棲を始めた当初は、まだ彼には「様々な隠し事」があったようですが、もう彼女は恋人にいいように運命を弄ばれる弱い女では全くなく・・・。
・他の女性との関係を全て断ち切らせ
・借金は債務整理を指示して最小まで縮小させ
・彼の給与・ボーナスは全て自身が管理し
・意外に草食系だった彼を巧みに子作りへと誘い
・・・見事、即座にご懐妊。
今は、引退して故郷に帰った旦那さんのご両親から一軒家を託され、相変わらずちょっと危なっかしいご主人と、ワンパクな1人息子を見事に束ねるいいお母さんになっております。
エースだった結奈は、当然、看護師に復職を果たしました。
その後、付き合っていた彼氏とは別の男性と結婚し、娘さんをもうけたのですが、そこそこあっという間に離婚をし、今はシングルマザーとして看護師と子育てを両立する毎日を送っているようです。
ちなみに、病院での肩書は早くも「婦長」だそうで、職務と職場が変われど、相変わらず仕事ができる「エース」であることは不変みたいですね。
恵美子は去年、長年の貯金を結実させ、見事に一軒家を購入。
現在、彼女は子供が2人いるどこにでもいる小奇麗なママですが、ただ、首尾一貫、相変わらずヘビースモーカー&ギャンブル好きは卒業しておりません。
先日も、「宝塚記念取りました!」とメールが来てましたね。
(ちなみにそのレース、僕は大枚はたいて勝負して外しました)
涼子は閉店後、また増えた借金に苦しみ、愛子の紹介で弁護士に会い債務整理を勧められたものの、今後夫婦がローンを組む可能性を考慮し、取りやめたそうです。結局直後、離婚覚悟で負債の存在をご主人に打ち明け、理解を得て一括にて完済。一時、彼の転勤に絡んで下関に2年ほど移り住んだ後、去年には帰阪した彼女は、現在は幸せな妊婦です(ちなみに今家の財布は涼子が握っているんだそうな)
志保美は、借金こそ愛子の紹介で債務整理をしましたが、新しく捕まえた彼氏にも色々と問題があったらしく・・・。
ただそれから紆余曲折を経て、違う人と出会い、結婚。
先日みんなで久しぶりに居酒屋に行った際、不妊治療に励んでいると明るく笑う志保美は、昔より随分強く、そして健やかに見えました。
「そういえばオーナー、私、あれからちょっとだけ行った違う店で、例の「結奈ちゃん薬物事件」よりもっと怖い目にあったんですよ!何があったか聞きたいですか!?」
「いえ・・・遠慮しときます・・・」
ちょっと食い気味に断ったものの、結局5人のガールズトークにより耳に入ってしまったその事件は、せっかくここまである程度の品位を保って(?)書いてきたこの作品をぶち壊す可能性がありますから、省略致します。
ただ、一言。
【夜の闇は漆黒・暗黒よりも深いんやで】
・・・とだけ、記しておきましょう。
これを読む女性の皆さん。
できることなら、明るいおひさまの下をお歩き下さい。
【積まなくてもいい経験、経なくてもいい体験】
というのも、世の中には確かにあるのですから。
このエッセイを書くにあたり、僕は取材した彼女ら5人に、コンテストのことを伝えていませんでした。(最終選考に残って急ぎ事後報告でしましたが(笑))
ノンフィクションとはいえ、名前は源氏名ですし、おのおのの設定はある程度はボカシて書いてあるので、5人のご主人や家族や友人が仮にこの作品を目にしたとしても、絶対にそれがその人だと気付かれることはありません。
ただ、これだけは書いておきたいのです。
別にこの5人に限った話ではありませんが、人間の「現在」を形成するために費やされた過去の時間。
その砂時計の砂の1粒1粒の中には、今、隣にいる大切な、かけがえのない人に言いたくないような事柄も含まれております。
もし「そんな後ろ暗いことは自分には1つもない」という聖人君子のような人がいるなら、それはそれで凄いことですが、ただ、少なくとも僕がこうやって作品として紡いでゆきたいのは、そんな機械のようなご立派な人間ではありません。
僕は描きたいのは、あくまで【人間らしい人間】。
「さすらわずにして終われない」というような歌詞の歌があります。
「転がる石にはコケが付かない」という名言もございます。
多くの人間はきっと、急な渓流を流れ落ちる角ばった小石のように、色んな所にぶつかりながら人生という川を往き、その角を取ってゆきます。
そう考えれば、この作品に出てきた5人の嬢達の現在は、限りなく完全に近い「球体の石」です。
これほど激しく転がり進んだ時期を持つ人間はそうはいないはずで、だからこそ僕は彼女達を書かずにはいられなかった。
【紆余曲折を振り返ればそこに物語がある】
先日ふと浮かんだこの言葉が1番当てはまるのは、僕が知る限りでは、やっぱりこの5人でした。この5本の造花達をまず最初に描くのが、筆者にとっては最も自然なことだったのです。
物語を鮮やかに彩ってくれた美しい五輪の花達に、改めて、この場を借りてお礼を申し上げます。
さて、では最後になりましたが、芸のないお礼をここに。
この作品を執筆するにあたり、夜中にゴソゴソとコーヒーを入れる僕を怒らなかったどころか、毎朝起こし続けてさえくれた愛する奥さん、本当にありがとう。
行き詰った僕をいつも笑わしてくれた可愛い愛娘、愛してるよ。
こうやって僕に書く場を提供してくれた「カクヨム」よ、ありがとう。
いつも僕を上手いこと乗せて筆を進ませてくれた塾長氏、ありがとう。
Twitterで僕のこの作品を宣伝して下さったB氏、ありがとう。
登録してフォローしてくれた上、ご丁寧に★を進呈してくれたり、な、なんとレビューまで書いて下さった奇特な方々、本当にありがとう。
ネットという声の聞こえない静寂(しじま)の中にいる、会ったことも見たこともないあなた方「友」がいなければ、この作品は生まれませんでした。
【造花】は、おかげさまで、何とか無事完結致しました。
まだまだ校正の余地はあるので筆者の夜更かしはもう暫く続きますが、とりあえず一旦ここで皆様に、僕の巨大な謝意を示しておこうと思います。
本当に、心から、ありがとうございました。
PS
そしてこの作品は、誰よりも先に、五輪の美しい花達に捧げます。
【造花】 斗月冬歌 @robin4811
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