落ちついた穏やかな語り口が心地よく、読み手の心にすっと入ってくる回想録です。
筆者が体験してきた人生、その時の思い。大切なもの。切ない記憶。
きれいな言葉で胡麻化すこともなく、かといってけっして毒吐きでもなく、小難しいうんちくでもなく、ただ淡々と思い出が語られているだけなのに、ひとつのお話を読み終えるたびに何とも言えないじんわりとした余韻が残ります。
それはおそらく、ただただ筆者の心に正直なところを、読者に媚びず、ご自身を飾らずに綴ってあるからでしょう。
人生はポジティブとかネガティブとか簡単に色分けできるものではなく、夕暮れ時のように微妙な色が混ざり合ってできているもの。そんな風に思えます。
日々の暮らしの中、心がささくれ立つときに、そっと宥めてくれる清涼剤のような読み心地がします。ぜひ本棚に並べていただきたい極上のエッセイです。