ドラゴンの心臓
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【登場人物】
サキ:24歳。元システムエンジニア。高校時代はバリバリのクラス委員で、マイに世話を焼いていた。
マイ:24歳。在宅ワーカー兼サキの同居人。高校時代はやる気がなかったが、サキと出会って変わった。
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1人暮らしには少し広く、2人暮らしには少し狭い1DK。
部屋の中央には小さな丸テーブルが置かれており、その下には毛足の長いラグが敷かれている。
部屋の住人であるサキとマイはラグの上に並んで座りながら、テーブルの上に広げた卒業アルバムを見ていた。
「マイ、本当に写ってないね」
「写ってる」
「どこ?」
「ここ」
「あ、ほんとだ。よくわかったね」
「サキと写ってるから」
「……本当だ。私も写ってる」
「一緒に写ってるのは全部チェックしてたから」
「いや、これ、たまたま写ってるだけじゃん」
「たまたまだと思う?」
「え? い、いやいやいや、ま、まあ、それは置いといて……あ、これはちゃんと一緒だ」
「私、寝てる」
「マイ、1年の頃はよく寝てたよね。授業も聞いてないし、いつのまにか保健室に行ってるし」
「あの頃は……ネットの世界が私の現実だったから」
「っぷ、それ言ってたね。懐かしいなぁ」
マイとサキが出会ったのは高校生の時。
たまたま同じクラスになった2人だったが、それ以外の接点はまったくなかった。
何故なら、まったく別タイプの人間だったからだ。
マイはいわゆる「男ウケの良い容姿」だった。
肩まで伸びた少しウェーブがかった茶髪、たれ気味の目、細すぎず丸すぎない顔立ち、ほどよく小柄な体格。
いわゆる「癒し系」と評される外見の特徴を、マイはいくつも持っていた。
一方でサキは「女ウケの良い容姿」だった。
整った目鼻立ちに背中まで伸びた黒髪、すらりと伸びた長い手足とそれに見合った身長。
いわゆる「クールビューティー」と評されるようなサキと、「癒し系」なマイの間には、接点の生まれる要素がなかった。
はずだったのだが……。
「サキ、高校のときに残念美人って言われてたの、知ってる?」
「……何それ、知らない」
「中身が妙に熱血でめんどくさい、だって」
「えー、そんな感じだったかなぁ」
「うん。めんどくさかった」
「え、ちょ、ひどい。マイだって色々言われてたじゃん」
「そう?」
「羊の皮をかぶった狐とか、癒し系トラップとか」
「何それ」
「見た目はかわいいのに、中身が怖かったって事かな」
「……サキも怖かった?」
「んー、私は別に。みんなはギャップがあったから怖いって思ったんじゃないかな?」
「なら、別にいい」
「え、何、そのかわいい返し」
「う、うるさい」
「まあ、怖くはなかったけど、色んな行事に非協力的だったから、手はかかったかなぁ」
「う……」
「しかもその理由が徹夜でネットゲームしてて、眠いって……ね」
「……ごめんなさい。クラス委員さま」
「うむ。今に免じて許す」
「さっき、めんどくさかったって」
「ん?」
「めんどくさかったって、言ったけど、でも、それで、サキがいっぱい構ってくれたから……学校、楽しくなったよ」
「それ、反則だわ……。マイさん、ちょっと抱き締めてもよかですか」
「何でなまり? 別に、いいけど」
「じゃあ、ぎゅーーっと……うん。私も、楽しかったよ」
「だから好きになった。私に一生懸命なサキがすごい好きになった」
「うーん、ごめんね。私は、全然気づいてなかったなぁ」
「許してほしい……?」
「うん」
「じゃあ……んっ」
「これで許してくれる?」
「まだダメ。もっと、んっ……」
「ふふ、許してほしくなくなっちゃうね」
「……バカ」
勝手にやってなさい
――2時間後。
シャワーを浴びて寝巻きに着替えた2人は、丸テーブルを挟んで向かい合うように座っている。
テーブル上にはゲームボードが置かれていて、そこにはファンタジックな騎士やモンスターが重厚なタッチで描かれている。他にはボードと同じイラストが描かれたカードや、ドラゴンの形をしたコマなどが置かれている。
さらに今日は丸テーブルの横に小さなサイドテーブルが置かれており、そこには皿に盛り付けられた多種多様なサンドウィッチが置かれていた。
「あー、ゲームやろうって言ってたのに、なんかこう、盛り上がっちゃったね……」
「大丈夫。想定済み」
「え……さ、さすが癒し系トラップ」
「サキ?」
「なんでもないです」
「今日はご飯を食べながらできるように、サンドウィッチにしてみた」
「いいねー。美味しそう! 食べていい?」
「うん。食べながら、聞いて。このゲームは、ドラゴンの心臓というゲームです」
ドラゴンの心臓。もしくはドラゴンハートと呼ばれる二人対戦のカードゲーム。
美麗なイラストが描かれたボードには、カードを置く場所がいくつか存在し(カード型の枠が描かれている)、そこに描かれているイラストと同じ絵柄のカードを出していくのがこのゲームの基本的な流れである。
まず、お互いに同じ内容となっているカード50枚の山札を持ち、そこから手札となる5枚のカードを引く。自分の手番ではその手札からカードを盤上に出していく。
カードを盤上に出した時、条件を満たしていれば既に盤上に置かれているカードを獲得できる。全てのカードには点数が書かれており、より高い点数のカードを集めるために、その時々でどのカードを出すのかの選択がキモとなる。
そうして交互に手番を行っていき、ゲームの終了条件である9枚目の「船」カードがボードの上に置かれるか、どちらかの山札がなくなったら、ゲーム終了となる。
その時点で獲得したカードに書かれている得点の合計が多いプレイヤーの勝利となる。
「ふむふむ。なるほどね」
「サキ」
「ん? ……んっ」
「唇にタマゴ、ついてた」
「あ、ありがとうございます……あ、え、えと、このゲーム、面白そう、かも。あと、サンドウィッチ美味しい、です」
「なんで敬語? 私も食べよ」
「ほんと、癒し系トラップ……よし。じゃあ、私から始めるね」
「ん、ほーほ(どーぞ)」
「まず、ドワーフを1枚出して、カードを引いて、終わり」
このゲームでは自分の手番に手札からカードを1種類だけ出せる。
そして、同じ種類なら何枚出しても構わないので……。
「んぐ……じゃあドワーフを3枚出して、ドワーフを4枚獲得する」
「えー! ずるくない?」
ボード上にドワーフのカードは4枚まで置けて、4枚目を置いた人が、そのカードを全て獲得できる。ドワーフの点数はそれぞれ1,2,2,3点だったので、マイは8点を獲得した事となる。
「ドワーフは1番枚数が多いから、そう言うこともある」
「ちぇー。じゃあ、私は宝箱を1枚出して、終わり」
宝箱は置ける数に限りがない。そして、宝箱を取るためには。
「じゃあ、火竜のカードを出して、宝箱をとる」
「えぇ、なんかどんどん取られるんだけど……」
サキの出した宝箱は1点だったのでマイの点は9点になった。
「たまたま」
「うーん、私もカード取りたいなー。石化ドラゴンを出すね」
「……! く、私はドワーフ2枚を置く」
「あ、やった。じゃあ女魔法使いを置いて、石化ドラゴンをゲットー」
石化ドラゴンは2点なので、サキは2点を獲得する。だが、石化ドラゴンを取ると、オマケがついてくるのだ。
「ん。じゃあ、ドラゴンフィギュアも獲得。手札が6枚になる」
手番終了時に手札を5枚になるまで引くのだが、ドラゴンフィギュアを持っていると6枚まで引くようになり、単純にカードが出しやすくなる。
ちなみにマイは女魔法使いが手札になかったので、石化ドラゴンを取れなかったのだ。
「やった。いっぱい引けるね」
「しばらく預けておく……私は宝箱を2枚置く」
「あ、じゃあ火竜を置いて、宝箱ゲットー」
宝箱は2点が2枚だったので、サキは合計で6点になった。
「ふふ。本命はこっち。ドワーフを2枚出して、4枚獲得」
1,1,1,2点の5点獲得で、14点となる。
「ふんふん……ん? あ、これ、いいのかな。ドワーフ4枚」
「……! い、いける。すぐ獲得」
「やったねー。いえーい」
手札6枚の恩恵で、サキは自分1人で1,1,2,2点のドワーフを出して獲得した。合計で12点となる。
「……石化ドラゴンを1枚出す」
「あ、じゃあ女魔法使いで取るね」
「……!」
「ふふ、ドラゴンさんは簡単には渡さないよ」
ドラゴンフィギュアは1個しか存在せず、石化ドラゴンカードを獲得したプレイヤーが手に入れられる。既に持っているプレイヤーが獲得した場合は、そのままだ。
石化ドラゴンは全部2点なので、合計14点で両者同点となった。
「甘い。もう一回、石化ドラゴンを置く」
「あ、それはさすがにとれないなぁ。よし、じゃあ狩人を3枚出して、火竜をいただいちゃおう」
宝箱を取るために置かれる火竜のカードは、狩人のカードの3枚目を出す事で獲得できる。サキはドワーフのときのように自力だけで3枚揃えて、火竜を獲得。3点を2枚獲得して、6点追加の20点となった。
「女魔法使いを出して、石化ドラゴンとドラゴンフィギュアを取る」
「えーと、フィギュアを取られたら手札はどうするんだっけ」
「相手が内容を見ずに1枚引いて、山札の上に戻す……コレ」
「うぅ、短い繁栄だった……」
「盛者必衰」
「世知辛いなぁ……」
その後、ドラゴンフィギュアは何度か持ち主を変え、カードの獲得合戦も一進一退が続いた。
「トロールを1枚置いて、女魔法使いを獲得する」
トロールは何枚でも置けて、置くと女魔法使いを獲得できる。
「なんか、それぞれのカードの獲得方法って意味がありそうだよね」
「……?」
「例えば女魔法使いは石化ドラゴンの呪いを解いて仲間にする、とか」
「火竜は空からお宝を狙ってる?」
「はは、カラスみたい。うん、そんな感じで考えると面白いなぁって思って」
「じゃあ、トロールで女魔法使いは……」
「あー、そう言われると……美女と野獣みたいな感じかな?」
「……ック、殺せ……」
「ん? なんか言った?」
「なんにも。次、サキだよ」
「あぁ、うん。じゃあ騎士を2枚出して、トロールを獲得するね」
マイが何を想像したのかは謎のままにゲームは進んでいく。
騎士は2枚まで出せて、2枚目を出すと女魔法使いかトロールを獲得できる。
そして騎士と、狩人は、それぞれの2枚目、3枚目が出されると、ボードの外へそれらを置いておく。そして――。
「船を3枚出して、騎士と狩人を獲得する」
船の3枚目を出したプレイヤーが、それらを獲得できるようになっているのだ。
「あー! 次で取るつもりだったのにぃ……」
「……欲張るから」
「う、反論できない」
「ふふふ」
その後、程なくしてゲームは終了。
サキは56点、マイは68点だったので、マイの勝利となった。
「あー、最後の船を逃したのが痛かったなぁ……」
「くやしい?」
「悔しい! 次はもっと上手くできる気がする」
「ん、私は嬉しい」
「まさかの自慢……くっ、勝者の権利」
「違う。サキがそこまで夢中になってくれたのが、嬉しい」
「え、あ、あぁ、なんかごめん。マイがオススメしてくれるゲームって面白いよ。前にやったやつとかもね」
「私が好きなものを、サキも好きになってくれるのは、うれしい」
「うん。それは私にも分かるかな。でも、私が楽しいのは、マイと一緒にやってるからだよ。マイが相手だから、楽しいんだと思う」
「他の人とだったら、やりたくない……?」
「いやいや、そういうマイナスなやつじゃなくて。好きな子と一緒にゲームできるのは楽しい、だよ」
「ん……好きな子」
「そうそう」
「じゃあ……もう一回、する?」
「うわぁ、それ反則」
「?」
「ほんと癒し系トラップ……」
「……ふふ」
勝手にやってなさい
勝手にやってなさい【掌編~短編・連作】 みやのかや @kaya_miyano
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