[Day010][26]輝け、むーさん!

<<おぎゃあああ>> :息子の、むーさん。生後2ヶ月半。

『オイラです!』   :父親の、むーさい。生後だいぶ経つ。

「嫁です!」     :母親の、みーさん。生後だいぶ経つ。

 ~こんな展開!   :前記父が、前記母に対して語っている、物語。

 その他は、通常の描写とか、父母の会話とか。

----------------


 ~そんなこんなで、2ヶ月の期間があっという間に過ぎ去り、ついにオイラ達KZK48のライブの日が来た。 

 ~会場は、東京の某野球場。



 ~2日前くらいから会場入りして、全体の流れとか、曲とか。リハで入念にチェック。

 ~機材も試して、「つー? つー?」「うーん うーん」って感じの、謎のマイクチェックも行われている。

 ~また、バイト? 契約社員? が慌しく行き来をしながら、ライブ会場の設営を頑張ってくれている。

 ~僕らは正規のAKBグループ用の出入り口から、中に入った。


 

 ~そして、リハーサルが終わった。

 ~明日はいよいよ、本家グループのライブツアーがスタート。その初日に、オイラ達「KZK48」の結成初ライブだ。

 〜「みなさん、気を引き締めて、明日頑張りましょう!」

 ~「kzkーーー48!」 「うーん」「うーん」

 ~良くある円陣の中に、赤ん坊の声も少し混じっている。


 ~私服に着替えて帰る途中、

 ~幕張のイベントで見事1位になったファミリーさんから、声をかけられた。


 〜「ムーズさん、最近頑張ってますよね! メキメキ腕を上げてきている気がします」

 〜「次のダンスバトルがあったら、ムーズさんと戦うのが楽しみです。負けませんけどね♪」

 〜「まずは明日のライブ、頑張りましょう! よろしくお願いします!」



 ~そして、会場を出る。

 〜なんと、出待ちがいた。まだデビューしてないのに。


 ~暗がりに見える小さなシルエット。よく見ると、見覚えがある。

 〜あれだ。大泉学園の”ヤナーズ”の男の子だ。


『あれね? こないだ、公園に来たあの子ね』と、むーさいことオイラ。

「りょかー」と、嫁のみーさん。


 ~「どうしたの?」と嫁が尋ねると

 ~「どうしても、一言、言っておきたくて」と、その男の子。


 〜男の子は少し後ろに下がると、おもいっきり頭を下げた。

 ~「ダンスバトルの時はすみませんでした!」


 〜「へ?」という感じのうちら。

 

 〜「ムーズさん達の初ライブ、実は僕、見てたんです。公園で暗幕引こうとするなんて、変なことやってるなって思って」


「あははは!」

『そう。最初のあれを、実は、こっそり見てた人がいたわけよ。むーさいは気づかなかったけど』


 ~「何か準備をしてるのを見かけて、端から覗いていたんです」

 〜「お客なんて誰もいないのに、なんか凄く仲良さそうに、楽しそうに踊っていて」

 〜「なんか、いいなぁとおもったんです」


 〜男の子は、堰を切ったように話し始めた。

 ~「僕らは、ずっと前からファミリーアイドルをやっていて、ランキング20位ぐらいまではすぐに上がりました」

 〜「でも、いつのまにか、ランクで上に行くことばかりが大事になってしまって」

 〜「家族で楽しむことを、忘れていたように、今なら思います」

 〜「僕の家族のみんなは、上に行く話、周りをひきずり下ろす話ばかりで、雰囲気もギスギスしていて」

 ~「大泉学園の地方選での、僕達”ヤナーズ”の1曲目の曲なんですけど、実はあの曲、ムーズさんの公園での曲を、参考にしたんです」

 ~そうか。だから被ったのか。予選である「西武池袋戦」では、うちらムーズは、被った2曲目を何とかしないとって感じで、慌てたんだったね。



 〜オイラは、その男の子に言った。

 ~『まあ、思想表現2分論で言えば、表現とアイデアを分けた場合のアイデアには、著作物性はないから』

 ~言い出した途端、嫁のみーさんの右手が、オイラの左側からぐわっと伸びてきた。


思想表現二分論とは、著作権法の世界で使われる考え方の1つで、

「アイデアに独占権を与えると文化の発展が逆に停滞しちゃうから、アイデア独占はさせませんよ。具体的に表現されたものについて、独占できるにすぎませんよ」という考え方の事。詳しくは割愛。


 ~『思想表現二分論ぐらいの単語は難しくないんじゃないの? 元々持ってる知識なんだし』

 ~って、やっぱだめか。

 ~「理屈っぽいってのは、知らないことをしゃべる事じゃないよ。元々ある知識をしゃべることだよ」と嫁。


つまり、思想表現二分論と言うと、オイラのヒゲが伸びるわけだ。設定に従うと。


 〜そして、この男の子も、難しい単語を聞いても意味を理解できてないっぽい。

 〜でも、『気にしてないよ?』というニュアンスだけは、男の子に伝わったようだ。


 ~男の子は、「明日のライブチケット取りました! 応援してます! 頑張ってください!」と声をかけてくれた。


 ~『ありがとうね。じゃあ、仲直りの握手をしよう』と、手を差し出すオイラ。

 ~緊張で、プルプルとふるえる、男の子の手。彼が走り去った後―― 


何か声がけをしようとしたんだけど、ベッドでリアルに寝ているむーさんに気を取られて、内容を忘れた。

「もう! すぐ忘れる―!」

 ~嫁に怒られた。(メタ話)

 ~しょうがないよ、タイトルが「むーさんとむーさい」だから、むーさんが途中で絡んでくるんだ。

 〜それでこそ、「むーさんとむーさい」だ。(メタ話)


『オイラ、きれいなこと言った!』

「そんなのはいいから!」と先を促すみーさん。


思い出した!


『さっき、男の子が謝ってくれたよね。謎もいろいろ解けたよね。曲被りの謎とか。最終回だからだけど』

『でもさ、1こだけわからない事があって』

『拉致られた理由』


「あはははは!」


 ~走り去る男の子を見ながら、オイラは嫁のみーさんに言った。

 〜『聞きそびれちゃったね、拉致の理由。まあしょうがないか』

 ~そう言って、僕らは家に帰った。


 ◆


 〜そして、ライブ当日。

 〜会場には、出番よりもかなり前の時間に入った。

 ~スタート直前まで何度も最終チェックが入った。

 ~いよいよ、オイラ達の出番だぞ!


 ~『ファミリーで、楽しくやろう!』「おー!」

 ~おかなんたちも、ライブを観に来てくれてるし。


 ~「観終わったらすぐ、にゃんこの為にお家に帰るって言ってたけど」


「あははははwww」


 ~勝ちにこだわると、”ヤナーズ”みたいに悲しいことになっちゃうから、楽しく! 楽しく!


 ~そして、イベントがついに、スタートした。


 ~(だみ声で)K! Z! K! Are! You! Ready!


「うるさい!(笑)」

「しょうがねーじゃんw そういう感じなんだからw」


夜中にだみ声でシャウトすると怒られる。学習。


 ~48ー! 「んあーーー!(赤ん坊ボイス)」


 〜本家グループの、ライブ開始時のやつを、そうやってむーさいが真似した。


「真似してたの! いまww」

『実際には、作中では、やってない(笑)』


 ~ライブのオープニングアクトは、本家グループの出番。数曲ぐらいやって、軽いMCが入って、その後に、オイラ達KZK48の結成お披露目ライブだ。


 〜本家の若い女の子達が、MCで紹介してくれた


 ~「それでは! こないだ幕張であったダンスバトルのメンバーで構成された、新しいユニットです!」

 ~「KZK48!」みたいなアナウンス。



 ~KZKの一部のメンバーが、舞台袖から一斉に飛び出す。派手な電飾。

 〜ついに始まった。


 ~ステージの中央前方には「せり上がる床」がある。

 ~オイラ達はまだ、袖から出番待ち。 嫁のみーさんに『行ってくるよ』と告げる。むーさんを抱っこしたまま。


 ~1曲目は規定の曲。おいらは、むーさんを抱っこしたまま、お客さんから見たステージの右袖から、ステージに登場した。

 ~例のポジション「前から3列目の右から2番目」だ。


 ~みんなに迷惑かけないよう、頑張ろう!

 ~基本は、むーさんを輝かせる。その気持ちで踊る。

 ~オイラはあくまでサポートであって、むーさんの可愛さで、お客さんに喜んでもらえればそれで良い。


 ~実際、踊りの最中のむーさんが、何度かテレビカメラに抜かれた。むーさんがアップで映る。

 ~残念ながら、むーさんを抱っこしたサポートのオイラは変な表情してた。

 ~ライブ終わった後の2chとかは見ないようにしよう。「黒子変顔過ぎwww」とか、絶対何か、言われてそうだから(笑)


 ~オイラ達の1曲目は無事終了。


 ~ステージの右袖から出てきたオイラ達は、ステージの後ろ(奥)にはける。そしてお客さんから見えない階段を降りる。階段下に待機していた嫁のみーさんに、むーさんをバトンタッチ!


 ~『よろしくおねがいしゅる!』


「wwww」

「まじでかんだの?」とみーさん。

『まじでかんだ』とオイラ。


こういう自然の流れの失敗の方が、狙ってやるよりも嫁は喜ぶ。

そう分かっているので、これでいい。


 ~作中では、この後、みーさんの緊張をほぐす何かを言ってあげようと思っていたんだけど、どうやら不要のようだ。

 ~そして、みーさんと、むーさんをオイラは送り出した。


 ~KZK48の2曲目が始まった。若干アップテンポ目の曲。


 ~むーさんを抱っこしたみーさんは、最初は、前列2列めの左端。「ナンバー2」ポジション。

 ~みーさんがんばった。すごいがんばった! センターにはなれなかったけど。


 ~そして、曲の合間。1番と2番の間のフィルインでは、自由演技が許されている。

 ~そこで、こっそり「パパごのみ」が炸裂! むーさんの両手をぐいっと上げて、「ぱぱーごのみ! ぱぱーごのみ!」

 〜それをテレビカメラが抜いてくれた。アップで映るパパごのみ!


「あははははは」



 ~2列目にいたむーさんといくみさんは、曲のテンポが変わり、転調するのと同時にフォーメーションチェンジ。

 〜一番後ろの列まで下がってバックダンサー化ける。最後列の10人位の子供(とそれを操る親)がシンクロした動きを披露する。センターの邪魔をしない程度に。



 ~そして曲のクライマックス手前。

 〜むーさんを抱っこしたみーさんは、最後列の中央から、人波をかき分けて、そしてセンターのポジションに踊りでた! 文字通り踊りながら。


 ~この曲は、途中でフォーメーションをいろいろと変えて、沢山の親子がセンターになれるように設計されていた。

 ~当初の予定にはなかった設計。

 〜KZK48のメンバーはこれまで、みんな頑張った。

 〜その結果、先生をして「正直、センターを受け持っても良いと思える個性が、こんなに出てくるとは思わなかった」と言わしめた。

 ~そして、考えなおした先生が、急遽、今のフォーメーションを組み立てたんだ。



 ~むーさんもその中の一人だった。一時的ではあったけど、全体のセンターをまかされることに。


 ~センターのポジションでは、動きは規定されている。

 〜けど、少しなら、ノリで何かやってもいいよ、と言われていた。


 ~やるしかないよね!


 ~しゅしゅしゅ!(むーさんのパンチ音) ういなー!(と、ガッツポーズ)


 〜他のKZK48の家族にはわからなかったかもしれない。でも、オイラには、はっきり聞こえた。

 ~むーさんの「ういなー!」が。

 〜正確には、むーさんを操っている、嫁のみーさんの「ういなー!」が。


「www」


 ~そして、曲の中ではさらに、センターが入れ替わり立ち替わりになり、無事、演奏終了。


 ~みーさん達は一斉に、左右の舞台袖、後ろの階段からはける。

 ~あとは、本家のアイドルの皆さんが、このライブイベント自体を盛り上げて締めるという流れ。


 ~オイラ達の出番が終わり、地下の、天井の低い広場空間に集合した、KZK48のメンバー。

 〜汗だくになりながら、互いの検討を讃え合う。


 ~「だいせいこうだったね!」

 〜「ありがとう!」


 ~スタッフの人も「いい感じで踊れてたよ」と、ほめてくれた。


 ~踊りの先生はべた褒めではなかった。

 ~「時間が無い中では、なかなか頑張った方じゃない?」

 ~練習中の罵倒、怒号にからしたら、充分にオイラ達は嬉しかった。


 ◆


 ~着替え中、おかなんからLINEが、嫁のみーさんのスマホに届いた。

 ~「にゃんこのお世話があるから帰る」


 ~オイラ達は、予想通りだと笑った。


 ~イベントの結果、むーさんはセンターには立てた。一時的にだけど。

 〜次の機会があったら、本当のセンターをとってやる!


 ~そしてもう一度、むーさんの「ういなー!」を、ステージ上で、轟かせたい。

 ~ありがとう!


 めぐライブ 完!


 <むーさんとむーさい 第一部 完>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

むーさんとむーさい にぽっくめいきんぐ @nipockmaking

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ