ポークキング

「ブヒー。いっぱい食べたブヒ。それにあの子すごく可愛かったブヒィ」


 ポークは優勝品の高級飼料と雌豚を充分に堪能した後、ベルトコンベアという運搬物を移動させる装置に乗せられ、客席の前を凱旋していた。


「いい気分ブヒ」


 そして一周ぐるりと回った後、厩舎の方角とは反対側へ伸びた直線のコンベアに乗せられる。


 目の前には大きなトンネル。暗闇の中を進むポークは期待に胸を躍らせ、嬉々と目を輝かせていた。


「どこに行くのか楽しみブヒー。表彰会場ブヒかなー」


 人間たちの言葉はある程度理解出来るが、会話は出来ない。どこに行くのか知らないまま、ポークは流れに身を任していた。


 過去に優勝した歴代の豚達は豚小屋には帰ってきていない。よほどこのトンネルの先が楽園のような場所なのだろう。ポークはそう確信していた。

 ――が、その確信はすぐに絶望に変わることになる。



「……こいつが例のブタか」

「……可哀想にな。ビリになっても、頑張って優勝しても、結局最後は同じ目に遭わされるなんてな」


 手袋をつけた水色の作業服を着た二人の人間がコンベアの左右から腕を伸ばし、身体を掴んでくる。


「マッサージブヒか?」


 脳天気に短い首を傾げるポークに魔の手が及ぶ。

 棒状のスタンガンがポークの身体に押し当てられ、ポークの身体が大きく跳ねた。まな板の鯉のようになすすべなく、横臥おうがする。


「ブギッ」


 その後もポークの身体は電気ショックにより波打つ。ドンと跳ね、ドサリとコンベアに打ちつけられる。


 意識はあったが、身体の自由は全く利かない。身体の表面を水で洗われ、仰向きに寝かされたポークは脚をピクピクと痙攣させながら、一点を見つめていた。


 水色の作業服を着た人間が手にした鋭利な刃物、そして人間たちの後方。天井から逆さ吊りにされた、かつての同胞たちを。


「…………」


 ポークは一瞬で理解した。


 走らされたのは肉質をよくする為、たくさん食べさせたのは肥えさせる為。雌豚たちとの交配という行為は優秀な遺伝子を後世に残す為。


 そしてここに連れてこられたのは――

 それがわかった時にはポークに既に意識は無かった。



 とある日。市場にて最高価格で、とある肉が並んだ。


『ピグキングレース優勝豚。豚肉の王様、ポークキング。王の名に相応しい旨味たっぷりの上質な肉を召し上がれ』

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ポークキング 無才乙三 @otozou

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