運命の一歩
ポークは一心不乱に走り続けていた。一心不乱といってもその速度はかなり遅い。人間の子供が歩くのと大差ないくらいには遅い。
「な、なんか大きな音がしたブヒが、汗で見えないブヒ。でも頑張るブヒ」
ポークには見えていなかった。ヨウクの置かれた凄惨な状況も、四匹の豚が飛ばされる光景も、ピンキーとデビットが重なり合い場外へ飛ぶさまも。彼には何ひとつ見えていなかった。
それ故に彼は立ち止まらず、走り続けることが出来た。そして彼にはピンキーに負けず劣らずの持久力があった。
「オイラには爆発的な加速力もないし、脚力もない。でも――」
いや持久力なんていう単純な能力ではない。彼が持っているのは根性、それだけだ。
「絶対に諦めない気持ちはっ……誰にも負けないブヒ!」
ポークが運命を変える力強い一歩を踏み出す。
レースは最終局面。普段なら白熱した競り合いが行われる最終コーナー後の直線である。
それは童話に出てくるカメの話よりも強烈な逆転劇であった。
「すごい、すごいぞ。こんなレースは未だ見た事がない!」
餅のようにふっくらとした身体が、障害物もない、ただただ平坦な道を正確に、着実に進む。
「ポーク選手の独擅場だ――」
ある者は言った。こんなものはレースでもなんでもないと。
ある者は言った。棚からぼた餅、いや棚から豚餅であると。
ある者は言った。運も実力のうちだ。レースは何が起こるか分からないと。
ある者は言った。大穴すぎるだろう、と。
「ゴール! なんと優勝したのはイーストン家のデビットでも、前回二位のピンキーでもなく、小さな農家の無名血統、ポーク選手!」
養豚場で常にビリを取ってきたポークが王者になった瞬間だった。
「おめでとうございます! 優勝したポーク選手には栄えある称号ピグキングの称号、そして高級飼料、雌豚ちゃんたちが与えられます!」
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