D-異常状態回復薬(副作用アリ)

 紫色の瓶に口を付け、グイッとその底を上げて中の液体を口に流し込む。

 舌が味を感じ取る前に、一息に喉の奥に!


「いい飲みっぷりだ!」

「うーぃ……まずい、もう一杯」


 とりあえず、定番の台詞を吐いたものの。もう一杯、飲むか? と聞いてきたゴルベット隊長に、要らないと言い捨てる。


 なんだこの、匂いを裏切る甘ったるさは!

 まるで砂糖を蜂蜜で煮込んだような、凶悪さだ。


 わたしの手の中から瓶を取り上げた、ゴルベット隊長は中がすっからかんなのを見て、苦笑いする。

「あ~あ、飲み干しちまった。こいつは、一滴で充分効果があるんだがなぁ」

「そういうことは、最初に言いなさいよっ! ――う、わぁっ」

 思わず突っ込んだわたしを、彼は俊敏な動きでベッドに押し倒し。馬乗りの姿勢で、わたしの両手をその大きな手で拘束する。


 巨躯にのしかかられ、目を白黒させるわたしを、彼は観察する視線で見下ろした。


「な、なによっ。お、怒ったの……?」


 大男にのしかかられる恐怖に、問う声が震えてしまう。

 恐ろしさのせいか、体の内側から熱くなる。

 熱はじわじわと体に広がり、指先まで……。


「は……っ」


 熱い息が、逃げ場を求めて口から漏れた。

 な、に? なに、これ……っ。


「熱い、か?」


 彼の太い指が、わたしの握りしめている手の隙間に無理矢理割り込み、手のひらを撫で、指を絡ませる。

 触れられる場所が、熱を強くする。

 彼が馬乗りになっている腰も、身動ぎする度に擦れる服の感触、たったそれだけで熱を持つのはどうして?


「異常状態回復薬の、副作用だ」

「副作用……? 熱く、なるのが?」


 熱っぽく、潤む目で彼を見上げれば。すがめた彼の目に見下ろされる。

 その射貫くような視線に、ゾクゾクと身の内が震える。


 や、めてよ、そんな目で見るの。

 獲物を見つけた獣みたいに、視線を外さない彼から目をそらせる。


 そもそも。

 この男の規格外の体格とか。固い手触りとか。低い声とか。

 ドストライクなのよ!


 こんな、いまからヤリますみたいな、馬乗りになられたら、胸がときめいて仕方ないでしょ!


 ああもうっ、胸がばくばくする。


 そんなわたしを知ってか知らずか。彼は身を屈め、顔を背けたわたしの耳元に唇を近づけると、まるで内緒話をするようにわたしの耳に吐息を吹き込む。


「副作用は――体が、欲望を覚えるんだ。こんなふうに、内側から、熱く、たぎる」


 な……っ、な、なんですとっ!


「なんで、異常状態回復する薬が、異常状態を引き起こすのよっ!」

「うむ。もっともな疑問だ」


 そう言いながらも、彼は両手で押さえていたわたしの手を頭上でひとまとめにして大きな片手で押さえつけると、淡々とわたしの衣装のひもを解いていく。


 え、ちょ、ま、待てよっ!

 不器用そうな手なのに、手際よく服を剥いていくその手腕に戦慄する。


「そもそも、西南の魔女はいたずら好きでな。どの魔法薬も効果は素晴らしいのだが、なにか一つ欠点を持つのだ」

「ちょ、やだっ、なにしてんのよっつ」

「視力回復薬ならば、ついでに聴力まで上げたり。傷薬を塗ったら、塗ったところの体毛が抜け落ちたり」

「服、剥ぎ取らないでよっ」

「まぁ、副作用を知っていたら対処は容易いが。最初に使う人間は、堪ったモノじゃないな」

「そりゃそうでしょうよ! っていうか、なんで副作用があるってわかってて、飲ませるのよっ!」


 下着一枚の姿にされて、羞恥と熱で涙がぽろぽろ零れだす。


「この薬は、魔女が作った最新の薬でな。俺が先刻飲んで、はじめてその副作用がわかった」


 そういえば、自分は飲んだって言っていたわね。


「じゃ、じゃぁ、なんでわたしにまで――」





「俺と共に堕ちろ」





 肉食獣の笑みに、胸がズドンと打ち抜かれた。

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