C-二日酔い
優雅に二度寝をキメこんでいたら、ダンダンダン! と部屋のドアを殴られた。
大丈夫、固い木で作られた分厚いドアだから、ちょっとやそっとじゃ壊れなーい。
そう、思ってた事もありました。
ドゴン!
重たい音に、驚いて飛び起き、恐る恐るドアをうかがえば。ドアから突き出たごつい腕が、内側に掛かる鍵を回し開けていた。
鍵の意味無い、鍵の意味……っ!
「いやぁ、悪い悪い。ちょっと強く叩きすぎたな」
「どう見ても、ノックじゃないよね」
部屋主の許可無く入ってきたゴルベット隊長にジト目をくれてやるが、まるで意に介さずに人のベッドまで来て、わたしの隣にどかりと座る。
でかい尻を避けたわたしの腰を掴んだ大男は、自分の膝の上にわたしをすくい上げる。
「子供扱いはやめて」
「ガキだとは思ってねぇよ、
嫌がらせのように、そう言う男を、ナナメ45度でギロリと睨み上げる。
「おお、怖い。ガキだと思ってたら、晩酌になんか付き合わないだろうが。な? 機嫌を直せよ、ツカサ」
宥めるように大きな手が背中を撫でる。
「機嫌が悪いわけじゃ無いです。二日酔いなだけです」
「そう思って、こいつを持ってきたぞ」
そう言ってわたしの目の前にぶら下げた小瓶を見る。
いかにも怪しげな、紫色の瓶。瓶の半分程の高さで、液体が影を揺らしている。
彼の翡翠色の瞳とその瓶の間で視線を行き来させ、眉間に深いしわを刻む。
「なんだその、胡散臭いモノを見る目は」
笑顔のままでそんなことを言う厳つい顔をまじまじと見て、酒臭さの残る息を吐き出す。
「いや……胡散臭いでしょ。それより、お尻痛いから、降りるわよ」
固い肉座布団の上から、柔らかいベッドにお尻を移した。
「失敬だな。これは、由緒正しい南西の魔女が作った、異常状態回復薬だ」
「……」
しらんがな。
剣も魔法も魔獣も魔人も居る世界だから、なにが存在してもいいけれど、それはわたしと関係無いところで在って欲しいと、切実に願う。
とはいえ、この二日酔いが解消されるなら、魔法とやらに頼るのも悪くないかなと、怪しげな小瓶をゴルベット隊長の手から取り上げ、注意深く蓋を開けてみる。
お酢のようなツーンとする刺激臭に、思わず瓶を鼻先から離す。
「これ、絶対に腐ってる!」
「大丈夫だ、においほど不味くはない」
絶対に、嘘だ。
瓶にしっかりと栓をして、グローブのような彼の手にそっと戻す。
「わたし、自分の回復力を信じてるから。折角だけど、これは貴方が飲んで?」
彼の手を両手で包み込んで、にっこりと微笑んで小首を傾げてみせた。
「俺はもう飲んだ」
そう言って胸を張る男に、はり付けた笑顔が滑り落ちる。
「ちっ!」
思わず舌打ちをすれば、にやりと笑われる。
この男は最初に会った時から、わたしが素を出すのを喜ぶ。
他の人間は、天人らしく振る舞うわたしこそを喜ぶのに。
「これ、本当に、二日酔いが治るの? 絶対に?」
手の中に戻された瓶を振って、彼の目を見て何度も念を押すわたしに、それはもうイイ笑顔を返してくれる。
「勿論だとも。瞬く間に治るさ」
ズキリズキリと痛む頭と、酢の酸味を天秤に掛け。
意を決して、瓶の蓋を開けた――
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