イヴの夢

ラブテスター

イヴの夢

「神に棄てられた——楽園を追放された傷心のため、アダムは終生インポテンツであった」

「人類の始祖たる彼は早々に生殖の機能を失っていたのだ」

「しかし、それならば、私たちはいったい誰の子供なのだろう」


「役立たずの夫に失望し、イヴは夜ごと手ずから自身を慰めつづけた」

「あてどない情欲は彼女の奥底で悪疫のようにはびこり、氾濫するように魂を荒らした。爛れた心がいつか膿腫したように、彼女は想像妊娠した」

「しかし、想像妊娠で児は産まれない。それならば、私たちはいったい誰の子供なのだろう」


「まるく重たげな腹を撫でさすり、彼女はなお自慰し、自涜した」

「堆積する妄想が受肉したかのように、その腹はどこまでもまるくまるくふくれ上がり、いつか地の果てから日が昇るようにさえ見えた」

「その腹に抱かれて、まぼろしの子供は産まれ、育ち、まぐわい、また産み、偽りの大地にあふれて満ちた。私たちは彼女の子供なのだろうか」


「そうだ。そうだ。私たちは、彼女のオーガズムを目指して文明し、闘争し、繁殖した。私たちは夢想と迷妄の子供たちだ」

「私たちは、彼女にいだかれる仮初かりそめの未来であり、彼女にみなぎる悦楽そのものだ。いつか彼女が達するとき、ともに破裂し、消滅するだろう」

「それまでのさだめだ。それまでの歴史だ。それまでの、果てをを待つ儚い世界だ」


「絶望したか?」

「絶望したか?」

「絶望したか?」

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