映画のワンシーンのようなストーリー

親族を殺された主人公が、知己の殺し屋に復讐を依頼するという、アメリカ映画の一部をそのまま小説に起こしたような話である。

この手の話にしては非常に珍しいのが、伏線の回収がほとんどないところである。なんというか、淡々と起きたことがそのまま書いてあるようなストーリーで、どちらかというと形式は日記やエッセイに近い。娯楽小説ということであれば、もう少し終盤までに積み上げた行動や食事、売春などが結末につながるようにしても良いのではないか。
もしくは何かしら主人公や殺し屋の考えの変化によって、当初の意図どおり行かなくなった(たとえば、やろうとしていることをやめる、計画が狂う)などの展開があるほうが良いように思う。

またそうではなく純文学のようなものを描くのであれば、もう少しアメリカに詳しくなり、社会背景を作品へ巻き込んだ方が良いかと思う。人種差別や精神病のような描写があるが、一般的すぎて現代アメリカの病みや課題を描写しているとは言い難い。

以上、展開と舞台についてはあまり高い評価はできなかったが、修辞とキャラクターの描写は優れていると思った。特に見る、触れるという行動に付帯する描写はかなり丁寧で引き込める文才を感じる。このサイトでは平均よりまず上と見て良いかと思うので、さらに高めてほしい。

以上、総括すると、骨はないが、肉と皮は良いという感じがした。私から作者へできそうなアドバイスとしては「主人公が作中で経験した出来事によって計画を変える」という話を書いてみてはどうか、ということである。
この落ち着きのある硬筆な筆致を埋もれさせてしまうのは惜しい。少しの工夫で大きく飛躍できそうに感じた。ぜひ、他の方の意見も取り入れつつ、継続して書き続けてほしいと思う。