殺伐とした、あるいは異常な世界観を造ろうとするとき、常軌を逸した言動やグロ表現を多用して演出するものと、文章力を主軸として成り立つものがあると思う。
この作品は後者でしょう。
無駄のない文章、淡々としているが決して浅くない心理描写にはとても惹き込まれたし、登場人物達が自らの過去を語る経緯も滑らかで、読んでいて負担がなかったです。作者の文章力の賜物ですね。
実在する洋画や洋楽、洋ドラマがあちこちに散りばめられて作品にリアリティーを与えているのですが、それらを用いた比喩表現があまりに的確で「ここでそれを持ってきたか、確かにそうだ!」とシリアスな場面なのに笑ってしまいました。(笑)
元ネタの分からないものは調べてみても面白いかもしれませんよ。
内容が重ためなので読む人を選ぶかもしれませんが、個人的には、超どストライクな小説でした。
ハマる人は心臓撃ち抜かれる勢いでハマるはずです。
ぜひ一読を。
親族を殺された主人公が、知己の殺し屋に復讐を依頼するという、アメリカ映画の一部をそのまま小説に起こしたような話である。
この手の話にしては非常に珍しいのが、伏線の回収がほとんどないところである。なんというか、淡々と起きたことがそのまま書いてあるようなストーリーで、どちらかというと形式は日記やエッセイに近い。娯楽小説ということであれば、もう少し終盤までに積み上げた行動や食事、売春などが結末につながるようにしても良いのではないか。
もしくは何かしら主人公や殺し屋の考えの変化によって、当初の意図どおり行かなくなった(たとえば、やろうとしていることをやめる、計画が狂う)などの展開があるほうが良いように思う。
またそうではなく純文学のようなものを描くのであれば、もう少しアメリカに詳しくなり、社会背景を作品へ巻き込んだ方が良いかと思う。人種差別や精神病のような描写があるが、一般的すぎて現代アメリカの病みや課題を描写しているとは言い難い。
以上、展開と舞台についてはあまり高い評価はできなかったが、修辞とキャラクターの描写は優れていると思った。特に見る、触れるという行動に付帯する描写はかなり丁寧で引き込める文才を感じる。このサイトでは平均よりまず上と見て良いかと思うので、さらに高めてほしい。
以上、総括すると、骨はないが、肉と皮は良いという感じがした。私から作者へできそうなアドバイスとしては「主人公が作中で経験した出来事によって計画を変える」という話を書いてみてはどうか、ということである。
この落ち着きのある硬筆な筆致を埋もれさせてしまうのは惜しい。少しの工夫で大きく飛躍できそうに感じた。ぜひ、他の方の意見も取り入れつつ、継続して書き続けてほしいと思う。