呪いをかけてみた話

もだゆん

第1話


呪いってね、実在するんですよ。

あー、その顔、僕の言うこと信じてないでしょう?

言わなくても分かりますよ。

こう見えて人の機微には敏いと自負してますからね。

え?なに?真面目に関係のある話をしなさいって?

ふっふーん、関係大ありなんだなぁ、これが。

まぁ騙されたと思って聞いてくださいよ、絶対損はしませんから。ね?

それでね、さっきの話の続きで、呪いって本当にあるんですよ。

ねね、呪いっていうと、あなたは何を思い浮かべますか?

オーソドックスに、丑三つ参りして、藁人形に五寸釘とか?

ほかにはー、髪の毛とか爪を集めて焼いたりとか、猫の生首でミイラ作ったりとか……

ちょっと現代風に、ほら、そのテのトンネルに名前を書くとか!

呪いっていうと、みぃーんなこんなこと思い浮かべますよね。

まあそういうのも確かに効果ありそうですし、もしかしたら本当にヤバイものに狙われちゃったりするのかもしれません。

いけない、ちょっと怖くなってきちゃった。うーくわばらくわばら。

えー、で、何でしたっけ。

あ、そうそう、でもね、呪いってそんな手が込んだいかにもーって感じのことしなくても、すっごく簡単にかけられるんですよ。

むー、反応が悪いですよ、ここはもっと驚くところです。

はい?だからさっさと本題を話せ?Aについてのことを喋れって?

むぅ、失礼な、喋ってるじゃあないですか、さっきから。

……ふふふ。そうですよ、そのまさかです。Aはね、呪われちゃったんですよ。

……え!滅相もない!ふざけてなんかいるものですか。大真面目ですよ、僕は。

もしかして、僕の言うことを信じていらっしゃらない?呪いなんてあるわけないだろ?

だぁかぁらぁ、さっきからわざわざ呪いはあるって話をしてたんじゃないですか。

本当にせっかちな方ですねぇ。人の話は、最後までちゃんと聞くものですよぉ?


……うるさいですねぇ。いいから聞きなさいよ?あなたの足りない頭じゃあ答えにたどり着けませんから。

ははは、いやはや失敬。僕としたことが、失礼しました。

ちょっとイライラしてしまいまして、はい。ご容赦ください。ね?

それでねぇ、そう、の・ろ・い。さっき言った、すーっごく簡単で、それでいてかなーり効き目のある呪いっていうのを、僕は彼にかけました。

そうです、呪いをかけたのは、ほかならぬこの僕なんです。

どうです?驚きました?今明かされる衝撃の真実!

ははは、驚いてらっしゃる!

まぁ無理もないですよねぇ、Aの一番の友人に事情を聞きに来たら、僕が彼を呪ったなんて突拍子もない話を聞かされれば。うふふ。

ああ、いたいいたい。そんな風に声を荒げないで、机を叩かないで。

落ち着いて、落ち着いて。そして物は大切にしなきゃ。

人々の規範であるあなた方がそれじゃあ、いけないですよお?


まったく、あなたがいちいち話を遮るから、全然進まなくって困ります。

でも、これで本題に入れますねぇ。僕がかけた呪い。

なぁに、すっごく簡単です、準備するものもない。


僕はねえ、こう思うんですよ。呪いっていうのは、不幸あれというむき出しの悪意を相手にぶつけること。

そして、それを相手に理解させることなんです。お前は途方もない悪意にさらされているぞ。お前はそれから逃れられないんだぞってね。それが何よりの恐怖と憎悪になります。


だからね?僕は相手の、Aのそばに立って、こおんな風に、呪文をささやいただけ。


「ねえ 君って なんで 生きてるのかな。

 醜くて 取り柄もなくて 根暗で それでいて君って臭うんだ。

 そんな君だけど 一人前に ご飯だけは食べて お金だけはつかって

 ねぇ 生きていて 申し訳なくならないのかな。

 いいところ? 君に? そんなものはないじゃないか。

 君の姿かたちは人を不快にさせる 運動神経は悪い 勉学も無残

 くわえて人とまともに話せない 話にユーモアがない 協調性もない。

 読書家ぁ? ふふふ、でも君挿絵がない本は読まないじゃぁないか。

 気にの読む書籍の名前、全校生徒の前で堂々と言えるのかい?

 ふーんそう、家族が愛してくれてる。君が死んだら悲しむと?

 最近愛してるって言ってもらったかい?

 必要最低限以外の会話ちゃんとできてるのかい?

 ふふ、そうかぁ、すぐに答えられないのかぁ。

 僕ぅ?僕がどう思うのかってぇ?ははは、あんまり笑わせないでくれ。

 君みたいなモノと関わってたのは、こんなに存在価値のないモノを初めて見たか ら、すこし興味がわいただけ。今まで気づいてなかったんだねぇ、さすが、頭も 察しも悪いだけある。

 君の本領発揮だね!

 

 ねぇ、死んじゃいなよ。大丈夫、君がいなくなれば、ここの雰囲気も良くなっ  て、きっとみんなすっきりするよ。

 もしかしたら葬式の休みができて、喜んでもらえるかも!君みたいなのが役に立 てるよ!大丈夫!きっとみんな君のことなんてすぐに忘れるさ!

 君は何かの役に立ったことなんかなかったろう?初めて役に立つかも!

 

 心配ないよ。君より能力も性格も容姿も優れた人間はこの世にいーっぱいいる!

 心配ないよ。将来君が必要とされることなんてないんだ!

 現実を見よう?君は誰にも好かれてなんかいない。

 

 大丈夫、安心して。生まれ変わりなんてない。

 大丈夫、安心して。神様なんていない。

 だから大丈夫、安心して。誰も君を救わないよ。

 大丈夫、安心して。君が、ふふふ、大好きな、ええと転生?なんてないから。君 はずうっと何の価値もないどころか、迷惑と不快感を与え続けるだけだから。

 

 だからね? よぉく分かったろう?

 ねえ、もう一回言うよ? 

 君が生きてる意味って、あるのかな?」

 

『少年A自殺事件に関する調査報告書』少年B証言部分より抜粋



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呪いをかけてみた話 もだゆん @modayun

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