世界はボクらを待っている
「さあ、いよいよ本大会主催者からの発表です」
ブラスバンドのファンファーレに続いてドームの天井に巨大な映像が投影された。
「これは! 映像は電気自動車のガウス・モータースやスペースΩ(オメガ)などの立ち上げで知られる世界的起業家のウーロン・ムスク氏のようです。たった今、私の手元にムスク氏のメッセージが届きました。早速お伝えいたします」
「日本の皆さんこんにちは。私は未来の乗り物をデザインするために日本のものづくりの精神に注目しています。私の会社、スペースΩには日本人も多数参加しています。カケル・ソラノの父親、ワタル・ソラノもそのひとりです。私から本大会の主催者、ワタルをご紹介いたします」
ステージ上、天翔とタカシのすぐ傍に立つ覆面をつけた謎の主催者にスポットが当たる。主催者は勢い良く仮面を脱ぎ捨てた。
「父さん!」
天翔の目が丸くなった。
「なんと、本大会の謎の主催者は空乃天翔くんのお父さん、空乃大渡(わたる)氏でした!」
「空乃大渡氏と言えば、学生時代から天才プログラマーとして知られ、有名メーカーに就職したあと、ウーロン・ムスク率いるスペースΩに引き抜かれた、あの空乃氏ですね。天翔くんは空乃氏の息子さんだったんですね。ということは、ひょっとすると……」
「父さん、どうして!」
「天翔とタカシくんの育つ姿を見守ってきた。二人が共に高められる場をと考えていたら、ウーロンが派手な方がいいだろうって。正直、ちょっとやり過ぎだけどな」
「そうだったんだ!」
会場の上方、ウーロン・ムスクの映っていたドームの天井が割れ、雲ひとつ無い青空が姿を現した。
「巨大なヘリが近づいてきます。ヘリの下に何かぶら下がっているような、いや、あれはヒトです。ヘリの下にヒトがぶら下がっています。あれは、ハリウッドで活躍する空乃天女(おとめ)さんです。空乃天女さんが主演作『チャーリーズ』のエンジェルの役柄そのままに度肝を抜くド派手な登場です!」
「空乃大渡さんといえば空乃天女さんですね。元体操選手で個人では世界選手権八連覇、オリンピックで日本団体を三度の連覇に導いた勝利の女神で、途中からシンクロナイズドスイミングの選手としても日本チームでオリンピック二連覇、アスリートとしての絶頂期に結婚・引退・出産し、スカイシンクロのプロとして活躍した後、ハリウッドデビュー。主演第一作『チャーリーズ』のアクションで世界中にオトメブームを巻き起こした、あの空乃天女さん、大渡さんとのお子さんは非公開でしたが、天翔くんだったんですね。いやあ、これは驚きました。サプライズです」
「鳳博士……、ありがとうございます。そして今、飛び降りました。天女さんを象徴する色、真っ白なパラシュートが大きく花開きました!」
「さて、タカシくん、天翔、次はどこを目指す?」
「どこって」
ふたりは顔を見合わせた。
「世界よ」
ステージ上に天女が舞い降りてきた。
「母さん!」
「天翔、いっつもひとりにしてごめんね。お母さん忙しかったから」
「知ってるよ。大丈夫。だって……」
隣に立っているタカシをまともに見るのは照れくさかった。
「タカシくん、天翔のこと、いつもありがとう」
「そんな、ボクなんか」
ハリウッド女優から優しい言葉をかけられたからか、それとも隣が気になるのか。タカシの頭もボーッとしてきていた。
「タカシくん、キミのお母さんにも来てもらったよ。あそこを見てごらん」
大渡が指差した観客席では、腕組みをしたジイやの横で、カスミを抱えたタカシのママ、サトシとタケシが手をふっていた。
「私からはふたりに渡すものがあるわ。ウーロンから預かった世界大会への招待状よ。開催地はハリウッド。受け取ってくれるわね」
ふたりは天女の目を見て招待状を受け取った。
「で、ふたりはどうする。世界はキミらを待ってる」
天翔とタカシはしっかりと目を合わせた。声に出さなくても気持ちは伝わっている。
「タカシくん、行こうよ、世界」
「天翔クン、一緒に行こう、世界」
大観衆の祝福の中、ドローンバトラー、天翔とタカシの新しい挑戦が始まった。
「そういえば、天翔クン、手、ずっとつなぎっぱなしだけど」
「知ってる。それより、タカシくん、いや、タカシ」
「え、なに?」
「あのさあ。その、ずっとクインビーの格好のまんまでもいいんじゃないかなあって。その、ていうか、それがいいかなあって。ホント似合ってるし」
「エ、エエエッ?」
ふたりの勇者(バトラー)は赤面した。
小説版 ドローンバトラー天翔(かける) 澄川三郎 @sumikawa_saburo
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