父の画集(お題・僕の/私の本屋さん)

 仕事用のアドレスに知らない相手からのメールが届く。

『勝山書店と申します。貴方のお父様の作品ついて、ご相談が……』

 亡き父が若い頃、描いた画集が、出版社が権利を放棄し、書店に払下げされたサーバーからサルベージされたという。

『当書店のあるコロニーの初期の風景を描いた、とても素晴らしい作品集なので、是非、うちで売らせて頂きたいのです。つきましては著作権について……』

 父の財産は全て、母と娘の私が相続している。私は母と相談した後、書店に返事を出した。


「お父さんの本、今月も売れているわよ」

 印税用にネットバンクに開設した口座を見た母が、書店から入金に嬉しそうな声を上げる。

 書店のサイトには特設ページが作られ、宇宙空間に浮かんでいるとは思えない、下町の光景を描いた美しい色合いの絵が珍しがられ、ベストセラーになっているとある。

「お父さんの絵を喜んでいる人が、こんなにいるのねぇ」

 母の皺のよった目尻に浮かぶ涙。

 今度、母と二人で、父を再発見してくれた書店を訪ね、画集と共に父の描いた風景をたどってみよう。

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夢みるBOY ~なんちゃってSF短編集~ いぐあな @sou_igu

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