海に帰る(お題・海)

 朝が来た。海上のソーラーパネルから取り込まれた光がケーブルを伝って、海草牧場に降り注ぐ。ゆっくりと回遊する養殖魚達の群が緑の林を抜けていく。私は無人小型潜水艇を操縦し、餌を撒いた。

「お母さん! 見て! 見て! 先生の後ろ!」

 朝の仕事を終えて、家に戻ると息子の声。リアルタイムでリモート授業をおこなっている先生の、潜航中の潜水艦の窓にはダイオウイカが泳いでいる。

『マッコウクジラの死骸を見つけた。肥料として持って帰る』

 同じく潜航中の夫からの業務連絡。

 海面上昇で、人類の大半は海底都市に住んでいる。地上にいるのは、強烈な紫外線や激しい気候に対処出来る、僅な金持ちか、研究者達だけだ。  最早、地上を知る者は少なく、閉鎖環境にゆっくりと世界人口は減少している。

『我々、生命は海で産まれたんだ。最後は海で消えていくのも良いのではないか』

 SNSで流れてきた誰かの言葉が浮かぶ。

 海上でまた発生した『今世紀最大級のハリケーン』の話題を流すニュースを消す。

 朝日に揺れる海面。その下をマンタの群が優雅に飛んでいった。

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