絵本のような朗らかな展開から始まり、徐々にSF的な世界観が明かされ、そこからのどんでん返しがすごかったです。まるで救いようがないように見えるけど、当事者視点で見ると決して「不幸」なだけではないのかなと。物凄く密度の濃い短編でございました。
フレンチトーストやカフェオレを丁寧に作る「僕」の様子が牧歌的に描かれ、彼が愛されていることがわかった上でのあのラスト。それまで「僕」の見えていた世界が変わっていきます。ぜひ、最後まで読んでみてそれを味わってください。
余りにも微細な描写がスゴイ。というのも、読み直せばコレらは単なる情景描写ではなく、BOYのパーソナリティ――その示唆も兼ねられている事に、かなり後になってから気付きました。微細というより精密と言い換えた方がいいでしょうか。そして、密接世代の末裔を賜りながらも、衰退も繁栄も見出せないエゴの環に身を投じる彼に哀愁を覚えました。だとしても回り続けるのでしょうね。継いでくれる新たな家族が現れるまで――次の作品も楽しみにしています! ではまた、本日もお疲れ様です。
麗らかな日。美味しそうな朝ご飯。柔らかく過ぎる情景。丁寧な、吹き抜ける風さえも感じさせる描写を重ねるからこその深さと結末を是非味わって欲しい。そして、もう一度最初から、読んでみて欲しい。
作品に流れる雰囲気が不思議な感覚を覚えさせ、そして読み進めるうちに次第に寂しさが募ってくる。読み終わったときは、寂しさのなかにも爽やかな風が通った感じ。いっとき、生きているということはどういう状態であるかということを考えさせられる、とても良い作品だと思います。