第4節「影法師ノ影」 Episode4 "Mark of Shadow files"

17話 トロワの涙と神傭衆

Chapter17 "tears of Trois and God's Mercenaries"



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 口語伝承 "天地開闢カムイモシリ 叙事詩ユーカラ" 【四ノ記】

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 大国主尊おおくにぬしのみことは、数百数千に及ぶ人との融和により人のしきゅうの中から人が創られる仕組みを完成させた。

 地上は、いつしか、御井ミイ神と呼ばれた新たな人類の子らで埋め尽くされ、天府ヘブンで人が創造されることはなくなった。


 魂は魂ノ間ガーフから直接人に宿され、浄魂の輪廻システムが連動れんどうし始めた。

 しかし、大地ガエアはこれを良しとせず、恐怖を補うために異形の巨人兵ギガスを派遣した。

 予見していた大国主尊は、ミイ神に組みしてギガスを退しりぞけた。


 大地ガエアは大国主尊を封じることを決めた。


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      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ドスッ

「グッ、オォッ」

 身構えることも出来ずに、みぞおちに一撃を食らって崩れ落ちる守人もりと

 小綺麗な傀儡くぐつは守人を見ることもなく小吉ショウキチに向かう。


 ショワァアアア

 1秒間に何回繰り出しているのだろうか?

 物凄いスピードのパンチが小吉に浴びせられた。

 が、そのモフモフのからだは全てを受け流していた。

 スッと、小綺麗な傀儡くぐつが池の方に一旦いったん引き下がる。


 ドサッ

 同時に守人の巨体が地面に落ちた。


 残像と音がスローモーションのように遅れて届けられる。

 わずか1秒に満たない間のできごと。


(彼女には知性がある…)

 不思議と、メイはその動きを目で追えていた。

 察したかのように小綺麗な傀儡は、メイの左手首を掴んで走り出す。


 フワッ

 小吉がそのモフモフの体で行く手を遮る。

 ひたいの一つ目の様なつのり出し、モフモフの毛が硬い甲羅のような戦闘体型モードに変化しはじめる。


 ザッパーン

 小綺麗な傀儡は、その一瞬をのがさないかのようにきびすを返すと、小吉に背を向けて後ろの池の中に飛び込んだ。

「しまったモーン!」


「グッ… に…逃げられて…たまりやガルかぁっ!」

 守人が追おうとするが、膝が崩れて立ち上がれない。



 ボコボコボコ…

 真っ暗な水の中、傀儡はメイの手首を離さず深く潜っていく。

 水が冷たくなってきた。

 もうすぐ河に繋がるようだ。






      △ ▼ ▽ ▲ △


 バチパチ、バチバチ

 勢い良く燃える松明たいまつが川岸に並んでいた。

 ガラガラ、キー、キイー

「油をこぼすな! その一樽はそっちじゃない!7番だ。」

「急げ、張りが甘いぞ、もっと右向きぃ!」

 30名ほどの荒くれ兵士たちが慌ただしく動き回っている。

 巨大な弓弩きゅうどの発射装置を組み立てながら、陣形を整えているようだった。


「そろそろ、来るぞぉ…」

 黒服の近衛兵このえへい、隊長格の男は黒手袋を固く握りしめながら水面を凝視ぎょうししていた。

「よ~しっ、当たりぃ、トロワだぁ!」

高揚こうようした面持おももちで振り返って叫ぶ。


「さすがヘルフリート様、って奴だな。トロワは俺がとどめをす。」

 やせこけた頬に大きな傷跡、一人だけ熊の毛皮をまとった長身の戦士。

 巨大なモリを担いで川沿いに降りていった。


「ふん、出来ることなら貴様自身の手で開放してやるんだな…

 よし! 用意は良いな! まだだぞぉ!

  …

 ま~だぁ、まだ、ま~だだぁ~

  …

 今だ!」

 ヒョン、ヒョン

 ヘルフリートの号令で、近衛兵たちは弓弩きゅうどを河に向かって発射する。

 矢にくくりつけられていた網が河の一面を覆いながら沈んでいく。


  バシャ、バシャ、バシャ

 網漁あみりょうで引き上げられる魚のように傀儡が浮かんできた。

 トロワNo3と呼ばれた小綺麗な傀儡が網の中で藻掻もがいている。


(ふっ、力だけでは切れまい。人髪と麻をオリーブオイルで縛りこんだ特製だ。動く程に関節に絡みつく。)

「そのまま岸へ引き上げろ!」

 「セェーイ」 ズーッ

 「ヤァーッ」 ズズーッ

 黒服の近衛兵は一糸いっし乱れず的確にミッションをこなしていく。


 20年前、教皇領消滅きょうこうりょうしょうめつとともに消え去ったはずの近衛兵団の正装。

 肩に縫い込まれた金の十字架と長く伸びたカマ刺繍ししゅう、ヤゾメ枢機卿が狂信者を集めて組織した最強最悪の傭兵部隊、"神傭衆かみやといしゅう" のエンブレムであった。


 トロワは歯向かうことも出来ず、メイとともにゆっくりと岸まで上げられていく。

「よし、モリで打ち付けろ! 女には当てるなよ!」

 神傭衆かみやといしゅうの兵士たちは、捕鯨ほげい用にも見える巨大な銛がセットされた弓弩をトロワに向ける。


マファムわが妻よ! 今、開放してやる!」

 先ほどの頬傷男が血走った目を見開いて、トロワに巨大な銛を撃ちこむ。

 他の兵士も続いて次々に銛を撃つ。

 クワアァァァァァ!

 トロワは甲高い雄叫びを上げると、銛に射抜かれる前にまとわりついている網をそら高く放り投げた。

 トロワ自身も網にとらわわれたまま宙に舞う。

 目標を失った銛は、次々と河に飛び込んでいった。



 ドサッ

 振り落とされたメイを神傭衆の兵士が素早く捕獲ほかくする。

「放てぇ!」

 その姿を確認したヘルフリートは間髪かんぱつ入れずに叫んだ。

 松明の火が投げられると、網は一瞬で炎のかごと化す。


 ク、グウワアァァァァァ!

 トロワは悲痛な雄叫びを上げ、縮こまっていく。



(待たせたな、さよならだ…)

 ベリ、ベリッ

(んん!?)

 頬傷の男がトドメの剣を心臓に突き刺そうとした瞬間、トロワは絡まっていた右手と左足を引きちぎって炎の籠から飛び出す。


 ショワァアアア

「ぐわ、どわあ…」

 全身を打ち砕かれ崩れ落ちる頬傷の男。


 ピシッ、ピキーン

 片手片足のトロワに片っ端から弾き飛ばされていく猛者もさたち。

 何もないはずのトロワの目から水滴がしたたり落ちる。

 その水滴に炎が映り、怒気を発しながら泣いているように見えた。

 

(こっ、ここまで知能が… こりゃ、やべぇぞ)

 数名にまで打ち減らされた神傭衆かみやといしゅうは火薬の樽を中心に最後の円陣を組む。

(来るぞ!)

 ザッ!

 ヘルフリートが樽の口に火をつけようと覚悟した瞬間、トロワはメイをつかんで森のなかへ飛び込み、そのまま姿を消した。

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白兎ノ封じ神(Sealed Gods in Shirato) がーど(GUARD) @GUARD

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