16話 隻眼の剣

Chapter16 "Sword of Sekigan"



「メイ、小吉ショウキチ! アーサーをここから出来るだけ遠ざけて! イネ、舞奉ホウブ!」

 灰兎ミコが叫ぶと、その手にはイネが変怪へんげした短剣が現れる。

 上級巫女じょうきゅうみこが神へほうじるまいで使うことを許される神剣 "舞奉ホウブつるぎ" の姿だった。


 グルルルルッ…

 ウォーォォォッ!

 「くっ、また力任せに…」

 制する従魁ジュウカイを押し切り、血気盛んな守人もりとが小太りの傀儡くぐつに飛びかかる。


 ピシッ

 傀儡くぐつは光のような速さで、守人を一撃で払い飛ばした。


 ドサッ、

 守人が後ろの茂みに落ちる。

 バサッ!

 シュン、シュン、シュン、シュン

 従魁は翼を開いて飛び上がると、その銀色に輝く翼からかたまりような圧力弾あつりょくだんを連続的に撃ち出した。


 傀儡たちはけきれず、往復ビンタをらったように顔を左右に振りながら、階段の方へ押し戻されていく。

 トントン

 その隙に、傀儡に囲まれていた太乙タイイツ灰兎ミコと従魁の元へと戻る。


 ドダン!

 少し遅れて、払い飛ばされたはずの守人が先ほどの近衛兵2人を抱きかかえて戦列に並んだ。


「くっ、頭脳は働いていない。いわゆる本能って奴だけだ。」

 「うふふっ、手加減無しなんて、素敵じゃない?」

「そうね…小吉、守人! 早くメイたちを連れて出来るだけ離れて!」


 グヌォォオオオオオ!!!!

 傀儡たちが異形の顔をさらにみにくゆがめると、心に深く突き刺さる悲鳴のような雄叫びを上げる。


 ザッ、シュン!

 次の瞬間、従魁、太乙、灰兎ミコが傀儡らに高速で突っ込む。


 従魁は小太りの傀儡に。

 腰の関節を的確に捉えた鋭い前蹴りを繰り出すと、その反動で宙に浮かぶ。

 翼から圧力弾を撃ちだし、緩んだ関節の隙間から見える腱を引き裂いていく。


 太乙は背の高い傀儡に向かう。

 回りこんで、膝の後ろをローキックで叩いて前のめりにさせると、すぐさま蹴りと反対方向に躯を回転させる。

 前のめりに倒れてくる傀儡の喉元に回転エルボを叩きつけた。


 ほんの数秒の間の出来事。

 メイはまだ動くことが出来ずにいた。

「急げ、新手がやってきヤガる!」

 鼻をヒクヒクさせた守人にかされ、ようやく走りだした。




 背中を大きく湾曲させた筋肉質の傀儡。

 追い詰めたネズミの隙をうかがう猫のように灰兎ミコの周りをゆっくりと回る。

 その横では、従魁と太乙が目にもまらぬスピードで傀儡たちと交戦していた。

 一進一退の攻防、相当手強てごわいように見える


 メイたちが離れたことを灰兎ミコが横目で確認する。

 猫背の傀儡は、その隙を見逃さなかった。

 シャーン、シュビッ

 灰兎ミコが傀儡のしなやかでむちのような豪腕ごうわんに握りつぶされた…



 次の瞬間、傀儡のからだがバラバラに散る。


 まだちゅうに浮かんだままのの頭部が怪訝けげんな表情を見せる。

 パサッ

 灰兎ミコは舞い踊るように、真っ直ぐ太刀ひとたちを振り下ろす。

 傀儡の頭部は真っ二つに左右に裂け、地に落ちていった。


 宙に残る美しい太刀筋の残像ざんぞう

 舞奉の剣と灰兎ミコ眼帯アイパッチで隠されていた片目は、あやしく輝く光で繋がっていた。


(うふふっ、さすがミコ、強い、強い。)

 交戦中の太乙が笑みを浮かべる。



「いやぁ~ん! ミコりんがまたバッチィの切ったぁ!

 体ヂュウ、べっと べと~!」

 イネの不満気な声が、暗い森にひびいた。






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      エピローグ

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「まずいン、次の一体は速いんだモン」

 アーサーを脇に抱えながら、小吉はメイの手を強く握り直すと加速する。

 見かけによらず、かなり早い。

 暗がりの林の中、メイはただ引きづられていた。


 ピタッ。

「追いつかれたんだモン」

 少し開けた池の前の沼地。

 小吉の足が止まった。


 静まり返った夜の森。

 不気味な空気さえ、その場から逃げだしたくなるような高周波こうしゅうはが近づいてくる。


 ヒュオーオーン


 さっきの傀儡くぐつらとは異なり、小柄な子供のような体型、少し小綺麗に見える傀儡が目の前に現れた。

 動きに品がある。

 ゆっくりとその異形な顔を上げると…


 ドスッ

 何の反応もできずに、守人はみぞおちに一撃をらった。

 その巨体がちゅうに浮く。


「グッ…ヌォッ、オッ」

 よだれを垂らしながら、ただ、崩れ落ちていった。






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(次回)第4節「影法師かべぼうしかげ

    Episode4 "Mark of Shadow files"


 圧倒的な強さ誇る異形の傀儡くぐつ

 メイを救ったのは近衛兵だった。

 メイにたくされた神后シンコウ伝言アイテムとは?

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