AIが発展した未来の一コマ
いちごオレ
朝
誰が触れるわけでもなくゆっくりとカーテンが開く。
香り生成装置が作動し、爽やかな朝を模した香りが部屋を包む。
台所では滑車の付いた箱のような物からは何本もの金属でできたアームが伸びる。
アームは冷蔵庫からウインナーと卵を取り出すと器用に卵を割り、ウインナーの袋を開け
それらを焼き始めた。
「滑車の付いた箱のような物」は調理の間のわずかな時間すら見逃さない。
目にも留まらぬ早業で寸分狂わぬ正確な量のご飯をお茶碗に盛り付ける。
最後の仕上げとばかりに冷蔵庫から野菜を取り出すと
歴戦の主婦を思わせるかのような高速かつリズミカルな包丁さばきでそれを刻み
料理番組で見るような綺麗な盛りつけを披露するーーー
・
・
・
部屋に置かれたタイマーには「10秒」のカウントダウン。
カウントが0になると共に、ベットで眠っていた20代前半程の若い男がまぶたを開く。
「うん、時間ぴったし。 今日もいい朝だ。」
周囲には朝食の良い匂いが充満し、机の上には既に盛りつけられた朝食が並べられている。
そして、どこからともなく、優しいトーンをした女の子の声が聞こえてくる。
「おはようございます、マスター。」
男「ああ、おはよう」
女の子「朝食の準備はできてますよ! 今日はオーソドックスにウインナーと目玉焼きにしてみました!」
落ち着いた様子で返事を返した少年の前には、本来そこにあるべき少女の実態は無い。
その代わりに少年の目の前には32インチ程の大きさの、スピーカー付きのモニターが存在していた。
そこには、アニメ調で描かれた桃色と白を基調としたワンピースを身にまとった女の子が投影されている。
女の子「今朝のニュースはこんな感じです。」
男「へー。 お、今度の休みにスター☆トライアングルのヴァーチャルライブがあるのか。」
女の子「マスター、スター☆トライアングル大好きですもんね!」
男「景気は相変わらず芳しくないか・・・。」
女の子「最近の相場は特に下落傾向にありますし持ち直しは厳しいと思います。」
女の子の投影されたモニターに幾つものウィンドウが現れては消えてを繰り返す。
そこに表示された情報は全て、ニュースデータベースやネットSNS等に集積された情報から読者が読みたい物だけをピックアップして再編集されたものだ。
男「さて、ごちそうさま」
男はそう言うと手早く支度を済ませ、愛用の眼鏡を掛けた。
男「いってきます」
女の子「はい、いってらっしゃい! 引き続きサポートしますね、マスター!」
男の目の前には先ほどまでモニターの中に映っていた女の子の姿があった。
そして女の子の物とも、男の物とも違う無機質なシステム音が響く。
「分散処理<<クラウド>>モードに移行、ホームネットワークから切断しました。」
女の子「あ、そう言えば今日は午後から天気が崩れるそうですよ」
男「なら念のため傘を持って行かないとな」
女の子「今日も一日頑張るぞいっ! です!」
男「また何かのアニメのセリフか?」
女の子「2016年頃に流行ったアニメのセリフみたいですよ?」
男「相変わらずえらい古い物を引っ張り出してくるな」
女の子「好きですから!」
西暦2046年、数十年前に予想されていた未来程世界は進化していないが
確かに技術的特異点<シンギュラリティ>は起きていた。
CPU単体の処理能力不足はGPU、データデバイス等の進化によって補われ
AIのような高度な処理を必要とするソフトウェアプログラムはクラウド技術の更なる進化によって運用されている。
人間の多くの仕事はAIの補助やロボット技術によって代用され、人の娯楽の多くもまた、AIによって形作られている。
そんな世界で、今日もまた「いつもの日常」が始まる・・・。
AIが発展した未来の一コマ いちごオレ @milkycaramel
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