第14話 一大決戦! バイクvsソビエトホース

 機械と生物の一大決戦が行われている。機械側はサイドカーがついているバイク、いわゆる複車で武装はライフル1丁。それも弾切れだが、対する馬は、バイクが1両に対して約40騎で、武装はライフルが約40丁。双方に人が乗っている。場所は平原の為、武装がライフルの馬側に理がある。季節は春で、砲撃などの戦火に運良く晒されなかった草花が所々芽吹いている。

「まずい! 近づいてきます!」

「駄弁ってねえで離せ! 距離を!」

「なんでレバーじゃないんだ!」

「甘えてんじゃねえよ!」

「皮肉ですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 すでに戦闘開始から10分が過ぎている。ソビエト騎兵隊の射撃はバイクをかする様になってきた。だが、ヘーカー達に残弾はない。

「よし! 逃げるぞ!」

「わかっていますよ!」

「だったら速度をもっとだすんだ!」

「…………」

「どうした……?」

「ガス欠です」

 そもそも、バイク乗りがせっかく直したバイクをなぜ簡単に手放したのか。理由は燃料がないから殆ど走れないからだった。

「はめられたな……」

「俺達が勝手に墓穴を掘ったんですよ」

 バイクはふらふらと蛇行し始めた。ブロンが操れていないわけではない……ブロンなりに長く走ろうとしている。

「いくら機械でもしばらくは惰性で動くから! 回転上げろ!」

「そうなんですか……知らなかったなあーあ!」

 ブロンが精一杯の力でハンドルを捻ると、ハンドルは悲鳴にも似た金属音をたてて、もげた。

「………………うそん」


 バイクは停止し、騎兵達はその周りを囲った。

「ナチ野郎! 武器を捨てろ!」

「ナチめ! 殺してやる!」

「捕虜だぞ、こいつらは」

 ソビエト人はロシア語で降伏を呼びかけたが、無論、通じない。

「武器を捨てろって言ってるんじゃないか?」

「わかりませんよ……上官である貴方に責任があるんですから」

「こんな時ばかりそんな事を言いやがって」

 事実上の、機械側の敗北である。


「ドイツ語を話せる者は?」

「ここに」

「よし、通訳しろ」

 ソビエト騎兵の隊長は人間とは思えない程、とても冷徹な顔をして言った。

「武器を捨てて降伏しろ。さもなければ即、射殺だ」

「えーっと、ブキヲステテコフクシテネ……コロスー」

「聞き取りにくいですね」

「大体はわかったから、武器を捨てよう」

「と言ってもライフル一丁しかないんですけどね」

 なかなかに開き直りが早い男、それがブロンである。

「降伏する。条約に則った云々」

 ヘーカーは軍人が降伏する際の口上のような事を言った。

「助けてって言ってます」

「ふん、ナチ野郎がよく言うわ」

「なんてふてぶてしいんだ!」

「傲慢だぞ!」

 通訳が随分とざるの為、意思疎通がうまくいっていない。

「えーっと、チョウシニノンナ」

「一言いっただけでこれかよ……」

「通訳に問題があるんだろうなあ……まあ、俺たちはされるがままさ」

 この潔さは某戦車長に影響されていると言えるだろう。


 この「潔い」というのは「諦める」とは少し違う。否、アハッツ共にとっては全く違う──区切りをつける意味合いがあるのだ。

 一旦、状況を整理し自らそれを受け止め、受け流されながらもその中でもがき、あがき、最終的に生きて帰る事が彼等にとっての「潔い」という事だ。

 単純に、それ以外の言葉が思い浮かばなかっただけやもしれない。


 天は自ら助くる者を助く。


「敵! 来襲!」

「……撤退だ! ここで死ぬ事はない!」

「通訳、捕虜を連れて行け」

「はっ」

 敵、すなわちソ連軍の敵、すなわちブロン所属のドイツ軍がやってきたようだ。国防軍か親衛隊かは不明である。

 ブロンは驚いた……味方にこのタイミングで助けられるという結果ではなく、それに至る過程の一事象に驚いた。彼の視界の端から端に、馬に乗った人が飛躍したのだ。

 というか、それは馬に乗った同僚の戦車クルー、シュライヒだ。影が薄いと士官から思われている所為か、彼はほとんど出世していない。その為、軍を抜ける事を思い立ったが、無論そんな事を切迫したドイツが許すはずもなく、彼は別の事を思い立った。


 目指すは白馬の王子様……馬を駆り、第一次大戦や普仏戦争を彷彿とさせる英雄的容姿で、敵を蹴散らす事にした。誰にも命令されていない事であるが、誰からも何の命令も受けていないから、ギリギリセーフ。……と、彼は思っているが、こんな事がまかり通るならば軍隊という組織は、瞬時に瓦解するのである。

 しかも、白馬だと血と泥濘の戦場では目立つと思い、荷馬車を引いていた黒と白の連銭葦毛をどこからか盗んできて、ペンキで塗り、濃い緑と黒に近い茶のまだら模様に仕上げた。

「イワンどもめええええええ! 俺が相手だあ!」

「シュライヒ、お前だけなのか」

「なんだ……シュライヒか」

「ヘーカー曹長は兎も角、ブロンは俺より階級は下だろう? そんな奴がいると軍隊はすぐにダメになるんだぞ?」

 ここ数ヶ月でかなり知能が低くなってしまったらしい、シュライヒである。

 が、彼は幼少期から悪知恵がよく働いたのであるが、これが今、この時、ようやく人の役に立ったのである。


 彼の幼少期の頃を細かく書き記すと、いたずらと親の癇癪で文章の七、八割になるので関係のない辺りは省く。

 彼がやった悪戯いたずらの一つに、農場の羊を全部畑に放ってしまった事がある。ヴェルサイユ条約によって家畜の頭数すら制限されていたドイツには苦しいことであるが、その辺りは今は触れない。

 どうやって羊を操ったのかというと、戦争の残骸……畑には大量の金属片が埋まっていた──そういう畑は使う事は出来ない──から、それらを糸や縄で繋いだ。これを引っ張りながら走ると、途轍もなく煩い音が出る。日本の忍者が行なっていた事と似てるといえよう。


これを腰に巻きつけて尻尾のようにして、さらに手にもそれを持って走った。すると音に驚いた家畜共は見事に逃げ散っていった。幼シュライヒが笑顔で走っている事に恐怖したのかもしれなかった。



「いや、でも……どうやったらそんな事に」

ハンドルはもげる物だというのをシュライヒは知らないらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強戦車IV号 蕃茄河豚 @har3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ