――最悪。諦めてた絶望に泥を塗りこんで来やがって。
あの頃はハルヒになりたいと思っていた。
そのために色々なことをやってみたいと考えていたけど、自分はあそこまでエキセントリックにはなりきれなかったし、周囲にその願いが読み取られるなんて思えなかったし、美少女ではなかったし、そしてなによりキョンがいなかった。
ハルヒになりたいという夢は一人では叶えることがどうしても無理なことで、長門や古泉や朝比奈さんになりたいと思う人はいるはずがないのだった。ましてやキョンはだ。
そんな絶望を今更10年も経ってから思い出させるなんて酷い作品だ。
叶うことがありうる幸せな夢を持っていた幸せな人間が、現実に適応なんてしやがった人間が、私たちのことを見透かしてるんじゃない。そんなのは――
というわけで星3です。
もう一度、キョンのいないこの世界全てのハルヒ達に幸あれ。
そして俺はそーいう優しい世界が大好物だ! 良かったぁー! 「俺」はいい奴! 世界がいい奴に満ちますように。
いわゆるネットスラングにおける中二病、みたいなものに罹患してもう長い俺としては、伊東デイズ氏のレビューを読んでもこの話を読むことに恐れがあった。正直言ってびびってた。俺の魂が殺されるかもしれないと思ったからだ。
でも読まない訳にはいかない。部屋の片隅でカピバラのぬいぐるみを抱いてがたがた震えながらそれでも読んだ。
……よかったー! 世界はまだ優しかった。
この物語はまごうことなくここから始まるのだ。優しくて暖かい世界がここから!
そういう訳で、魂を殺されるかもしれないと怯える君も安心してほしい。大丈夫。いい話でした。
亭主の好きな赤烏帽子、って諺がありますが。
あれですかねぇ。幸い田中さんも症状が軽そうだし、主人公が一緒になって合わせているうちに普通の幸せを見つけて、目が覚めるかもしれません。
で、数年たって振り返る黒歴史になっていく。幸せな大人には真っ黒な黒歴史、というのが定番ですから、彼女もそうなって欲しいものです。
(←と、登場人物に感情移入してしまうほど心理描写が上手い)
またタイトルがストレートで、それだけに田中さんの孤立が深く胸を打ちます。
ハルヒを知らなくても知っていても、読者を引き込むだけの作品としての魅力があります。
一方で、作者さまの創作、創作物への深い愛が感じられる作品でもありました。
楽しいひとときに感謝いたします。