10月 ニート、帰る家がない
十カ月ぶりに俺は自分の部屋で生活を余儀なくされることになった。これから冬が来ると言うのに、この暖房設備が皆無の部屋で過ごさなければならない。もちろん、ご飯を作ってくれる人もいないし、会話相手もいない。
俺は一人でいる時間を少なくしたくてバイトを増やした。でも、バイトで交わされる会話がプライベートで交わされる会話の代替物として機能するはずがなかった。俺はますます孤独を感じ、執筆もおろそかになった。
俺は全く人と接しない一人暮らしの自分の部屋にいることがいけないのだと判断し、カプセルホテルに泊まってみることにした。そこなら、会話はなくても人の気配がしている。だが、これも全く効果がなかった。
晶子ちゃんは今頃どうしているだろう。俺みたいなクズを部屋に置いていてくれただけでもありがたかったのに、ちょっと晶子ちゃんがいい思いをしただけで、俺は腹を立てて出てきてしまった。なんてバカなのだ、俺は。
俺が今書いている小説に出てくる擬人化した家電は全部、晶子ちゃんの部屋にあるものだ。俺は晶子ちゃんがいない間、掃除をしたり、テレビを見たり、冷暖房をつけたり、ご飯を食べたり、洗濯したり、晶子ちゃんの家に揃っている家電を片っ端から使いこなして生活していた。俺が使い方を知っている家電は全部晶子ちゃんのものだ。書いても書いても晶子ちゃんの部屋を思い出す。何もかもが晶子ちゃんでいっぱいだ。
晶子ちゃんに会いたい。でも、どうやってまたあの部屋に戻ろうと言うのだろう。俺が戻ってきても、また晶子ちゃんが俺を迎え入れてくれるかもわからない。追い返されたらどうしよう。その時、完全に俺は俺自身に敗北してしまうことになる。このクズな俺自身に。
そうこうしているうちに、日は短くなっていった。段々と気温が下がっていく。カプセルホテルに泊まる金も尽きようとしている。
どこにも行き場所がない俺は、これからどうしたらいいのだろうか。
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