6月 ニート、結婚式に出たくない
数日振りに親に家賃を払ってもらっている俺の部屋に帰ったら、ちょうど郵便受けにハガキが届いたばかりだった。俺は何気なくそのハガキを郵便受けから取り出し、空っぽになった冷蔵庫にわずかばかりの食糧と酒を入れ、生活感のない部屋の隅に置かれた折り畳み式のテーブルにハガキを置いて座った。
こうして戻ってくると、よくぞ去年はこんなに何にもない部屋で生活ができたものだと我ながら感心する。あの時は、がむしゃらに書くことしか考えていなくて、というか、ヒロインのかわいいところしか考えていなくて、ろくなもんじゃなかった。
初心を取り戻せば何かが書けると思って、自分の部屋に帰ってきたってわけでもないけど、なんとなく、去年のことを思い出す。晶子ちゃんが来てくれなかったら、俺は孤独死していたかもしれない、とか、大袈裟なことを考えたりもする。
で、このハガキだ。大学の先輩から、結婚式の招待状が届いたのだ。「出席・欠席」という欄があって、どちらかに丸をして返送するようになっている。
俺は卒業式の時の失態を忘れない。祝いの場に、俺はいちゃいけない。絶対にダメだ。行ったらメンタルをずたずたに引き裂かれる。結婚式だと? なんて羨ましい響きなんだ!
でも、大学時代に世話になった先輩の結婚式だ。行かないと、それはそれで後で何か言われる気がする。どちらを取っても俺に得がない。
とにかく、少しばかりの良心から、俺はこのハガキを無視するわけにはいかないと思い、カバンに入れて、晶子ちゃんの部屋に戻った。
「佐藤先輩から結婚式の招待状来てたでしょ?」
「え? 何でわかるの?」
俺は夕飯を食べながら晶子ちゃんの言った言葉に驚愕した。
「今日、部屋一旦戻ったんでしょ? 私のところにもハガキが届いてたから、統一くんの部屋にも届いてるかなって思ったの」
「ああ、なんだ。そういうことか」
「一緒に行こうよ」
「……えっと、うん……」
「何? 嫌なの?」
「だって、俺、無職だし……」
「大丈夫だよ、佐藤先輩も知ってて招待状送ってきてくれてるんだから」
「そういう問題なの?」
「平気、平気。皆、統一くんがラノベ作家目指してるの知ってるから」
「何で?」
「私が言ったから」
「何で言ったの?」
「うーん、成り行きで?」
「はあ!?」
「ダメだった?」
「だ、ダメじゃないけど、えー!」
晶子ちゃんは俺の分も「出席」に丸してまとめて返送してしまった。俺は無断欠席せずに済んだが、もっと緊張する状況にひた走ってしまった。
結婚式当日のことは触れないでおく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます