ニートじゃない、小説家だ!(二年目)
伊豆 可未名
4月 ニート、方向性が見えない
また四月がやってきた。俺、佐久間
去年の一年間をここで振り返ってみよう。俺は大学を卒業した後、ラノベ作家を目指して、一人ボロアパートで小説を書き始めた。その時は夢があって、近いうちに賞を取って、デビューできると思っていた。だが、現実はそう甘くない。俺は生活費のために執筆時間を削ってバイトを始め、お盆に里帰りもせず、働き、書き続け、ラノベの新人賞は一次審査も通らず、奨学金の返済が始まって、バイトを増やして、風邪を拗らせて倒れて、それからはバイトもそんなにしていない。
何もかもダメになった俺を救ってくれたのは、大学の同期の忘年会で久しぶりに会った晶子ちゃんだった。晶子ちゃんは俺に自分の部屋の合鍵をくれて、いつでも出入できるようにしてくれた。俺は晶子ちゃんに甘えて、しばらく小説を書くことすらしなかった。
三月末に、俺は晶子ちゃんと一緒に後輩の卒業式を祝いに行った。今思えばどの面下げて他人のお祝いに行ってるんだと思う。でも、晶子ちゃんに誘われた時の俺はそんなこと考えなかった。懐かしい後輩と会ってみたいなと思っただけだった。
俺は卒業式にすっかり浮かれ気分の後輩達の輪の中に入って行くことができなかった。そもそも、去年の俺自身の卒業式の時だって、内定はないし、進路が決まっていなかった俺はとても祝える気分ではなかったのだ。それを忘れて、晶子ちゃんに誘われたことが嬉しくてほいほいついていってしまったのだ。
それで今、俺はその事を苦々しく思いながら、晶子ちゃんの部屋にいる。
全く、とんだろくでなしになったものだ。俺は一体何をしたくて生きているんだろう。忘年会では晶子ちゃんに、夢があるっていいよね的なことを言われたが、夢なんかばっかりあったって、どうしようもないじゃないか。
俺はとりあえず、ノートパソコンの電源を入れた。古くなったノートパソコンは起動もクソ遅い。でも、それ以上に俺のやる気スイッチの起動は遅い。
ラノベを書くと言ったって、何を書けばいいんだろう。今まで俺は何を書いていただろう。強くて希望に満ち溢れた勇者の主人公なんて、俺みたいなクズが書いたってうすら寒いだけだ。じゃあ、鬱展開のものを書くのか? どん底まで落ちた俺みたいなクズの主人公が、結局何の助けも得られずにのたれ死ぬ話? それは面白いのか?
ノートパソコンのログイン画面が表示された。俺は一瞬、パスワードが思い出せずキーボードの上に手を置いて静止する。ああ、そうだ。思い出した。何度もタイプしたパスワードを忘れるところだった。指は感覚を覚えていて、数字とアルファベットを合わせた短めの暗号文を打ち込んだ。
さて、それで、何を書くか。俺みたいな何もしてこなかった奴でも書ける小説。
気付くと、バイトの時間だった。俺は結局何もせず、ノートパソコンをシャットダウンした。晶子ちゃんに夕飯の買い出しも頼まれていた。それと、卒業式の時に会った後輩と飲みに行く約束もしている。
俺は今日もただ流されていくだけの生活を送っている。
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