12月 ニート、冬場の家事に慣れない

 ああ、冷たい。洗濯機から出す洗濯物が水に濡れてものすごく冷たくなっている。これからこれをカゴに入れてベランダに出て干すのだ。

 ああ、寒い。かじかんだ手で洗濯物を一枚ずつ出して、軽く振ったりして皺を伸ばして洗濯バサミで挟む。飛んでくる飛沫が冷たい。

 もう、なんなんだよ。洗濯機ってお湯で洗う機能とかついてないのかよ。まあ、それだとガス代が跳ね上がるから別にいいけど。

 家電を擬人化したラブコメ小説を書くと決めてからもうだいぶ経つ。俺は紆余曲折あったが、相変わらず日常でもフィクションでも家電との格闘が続いている。

 テレビが擬人化したヴィヴィアンとBlu-rayレコーダーが擬人化した青子は主人公の趣味趣向を熟知していて、勝手に新番組を録画予約してくれて、主人公が暇な時に一緒に番組を見て感想を言い合ってくれる。掃除機が擬人化した栗子はいつも部屋をクリーンにピカピカにしてくれる。洗濯機が擬人化した新井はどんな染みも汚れも綺麗に洗い流して、外に干して、乾いた洗濯物を畳んでタンスにしまうところまで全部やってくれる。主人公の生活は擬人化した家電達自ら全ての家事をやってくれることで充実し始める。

 家電達は誰が一番主人公から愛されているかを競って、自分の役割を主人公がどれだけ褒めてくれたかで判定しようとする。そうとは知らない主人公はいつも通り家に帰ってきて、いつも以上に整っている部屋の様子を見て、感動し、それぞれの家電達を褒める。全員褒められてしまったために、一番を決める事ができず、どんな事を褒められたか、どんな風に褒めてくれたかを事細かに整理して一番を決めようとする。

 主人公は様子がおかしい家電達に気付いて、井戸端会議を覗き見てしまう。主人公に誰が一番愛されているかを競っている事がバレてしまった家電達は慌ててごまかそうとするが、主人公は家電に優劣なんてないと言って、全員いるから生活が成り立っているのだと家電達全員を心から愛していると宣言する。そういうハッピーエンドだ。

 ああ、寒かった。俺は考えながら洗濯物を干し終わり、部屋に戻って暖房をつけた。そうそう、暖房がないと冬は乗り切れないよね。疲れたらテレビ見たり、スマホいじったりして時間を潰して、腹が減ったら料理をして、夜が来たら風呂に入って、寝る。それができるのも家電が揃っていればこそだ。何もない部屋では快適な生活は送れない。晶子ちゃんと仲直りできて本当によかった。これで執筆も進むってものだ。かわいい家電に囲まれて、主人公も俺もハッピーライフを送っている。

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