いいこと


ヤンは先の話から、ヴィラに少しの失望をし、話を雑に流した。

明らかに話に乗ってこないヤンに対して、ヴィラはあれ?となにか違和感を感じ取った表情をしたが、それよりもリプレイサーのほうが大事なのか、そのことを追求することはなく、そのままサングとの会話を続けた。ヤンも、話を聞いていないということはそれはそれで後々面倒になると感じたので、重要なワードだけ聞き取る努力をした。義務教育時代という洗脳において、先生様の素晴らしいお話をそういうふうに聞いていたように。G.E.N.E.テストの点数が悪かったことに、間違いなくこのスタイルが影響していることは違いなかったが、それを改めようとしなかったのがヤンの愚かさである。


そして今もなお、繰り返しているのである。


話はズレたが、つまり要点だけまとめると「いいこと」とは、リプレイサーの鹵獲である。


リプレイサーは全機GPSと、独自のネットワークにおいて管理されている。

もし与えられた仕事以外の場所を移動したりすると、すぐリプレイサー販売会社の村上重工の社員が警察とともに調査にやって来る。町中いたるところにある監視カメラを使って、確実にリプレイサーが異常行動を起こした原因を探る。

つまり、単純にルーチェの力である機能停止を使って、リプレイサーを動かなくさせ、例えばトラックにでも積み込んで強奪するという風な行為はかなりリスクが高い行為ということだ。 一時的な機能停止であれば、故障と判断される(大事にしたくない現場は、元請けにそう連絡するらしい。故障時のエラーコード等は本社のリプレイサー管理サーバーに送信されるが、一時的な機能停止は日常茶飯事のため、その程度では動かず、本社も故障と判断する)が、盗難の危険があるため、場所の移動に関しては全力で捜索される。 


実は一度、ヴィラ達は強奪を試みたことがある。その時は瞬時に警察に見つかり、その時は強奪用に用意した盗難車から飛び降り全力で旧市街地(区画整備の影響で、人が住んでいないとされている場所。人が住んでいないとされているので、監視カメラはほとんどない(ないことはない))を走り抜け難を逃れた。そのため、もし次、リプレイサーを強奪する時は、なぜ強奪する必要があるのか、その実行可能プランはあるのか、ということをしっかり相談した上でないと、実行できないという判断になっていた。


その判断を下すのが、実働部隊隊長のセッテである。

「なるほどな」

お伺いのために三人はセッテの部屋に乗り込んだ。

セッテは唐突な来客に眉をひそめながらも、ヤンとは違いしっかり二人の話を聞いた。 セッテは年齢は30手前程度であるが、幼少からPMCで、あらゆる戦場を潜り抜けているという噂がある。本当かどうかはわからないが、本人の立ち振舞をみてるとそう思ってしまう。


「たしかに、前回失敗した時と違って、モノも揃っているが・・・リスキーすぎないか。その見返りが十分とは思えないし、そもそも、君らの話も全て確実性がない。」

セッテはこういうことを言うことが、仕事である。


「だけど、ここで動かない限り一生ルーチェの秘密は明らかにならないわ。」

ヴィラは引かない


「一番危険な目に合うのは君なんだけど。それ、わかってるの?」

「わかってるから言ってるんでしょ」

セッテはやっぱりそういうよな、と顔に手をやった。

ヴィラはセッテと話すとき、少しも表情を変えず、ずっと真顔のままだ。






「わかったよ。じゃあ早速準備にとりかかろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光芒一閃のルーチェ ジック大森 @sugaryou_g

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ