何のために


「やっと動けるね」

ヴィラは手櫛で髪をかきあげながらそういった。

「そうだな。」

サングとヴィラは「いいこと」が何かわかっているらしい。

話を取り残されたヤンは気分が良くなかった。


「いいことってなんですか。教えてくださいよ。」

ちょっと嫌味っぽくヤンは二人に言った。

二人は顔を見合わせ、ケラケラ笑った。

もっと機嫌の悪くなるヤンの姿を見て、ヴィラは笑いながら口を開いた。


「このルーチェ、実はある所から強奪してきたものなのよ。」

衝撃、というほどのものではなかったが、ヤンは驚いた。

「それで、説明書なんてあるわけないじゃない?」

ヴィラはクールな普段の雰囲気とは違って、ジョークをとばしてきた。その意外さが面白かったので、ヤンもふふっと表情がゆるくなった。


「で、色々調べてて、その時にあなたを見つけたのよ。」

「僕?」

「そう。ペーパーカンパニーを通して、あなたのG.E.N.E.テストの結果と、職歴を調べたのよ。」

ヤンは驚いた。そして、悲しかった。

あの衝撃の閃光は、計算されたものであるということを信じたくなかった。

無条件に助けられ、今ここで求められているとどこかしら期待していた部分があった。


決してそのようなことはこの世に存在しない。


ヤンは偶然にも、彼らの求めている条件を満たしていたから助けられたが

彼らの条件を満たしていない人は、選別されたあとに見殺しされているのだ


強力なシステムをもってしても、万人を救うことをできない。

そういうことを理解しているヤンではある。

だが、悲しかったのである。

頭でわかっていても、悲しいということはたくさんある。


「聞いてる?」

「あ、あぁ・・」





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