第七回 亜種特異点Ⅳ「異端なるセイレム」に出てくるクトゥルー固有名詞について

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 拙作「邪神任侠」がノベルゼロ様から出版されました。ヤクザが邪神と戦うノワールな作品です。当講座で特集・解説もしておりますので、ぜひお読み下さい。

 とはいえ、この講座を読みに来ている人ならきっともう読んでくれていると思いますが、仮に読んでなかった場合でも書籍版だけ買っておいて下さい。印税はこちらの口座もとい講座を充実させる為の取材費に回りますので、その為の簡単な初期投資ということで。


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【初めに】


 皆さんこんばんわ、書籍化作業と研究に忙殺され、その上野郎だらけのむさ苦しいクリスマスになる予定の悲しい男こと海野しぃるです。俺だって友人に裏切り者と罵られてみたい……彼女欲しい……。


 さて、何故こんな事になったかというと、本来なら理系の学生らしく研究発表とかで普通に忙しいシーズンなのですが、担当さんとの話が盛り上がり、「折角ですし、長編としてまとめることを重視してみたいです! 短く一つ一つ盛り上げるのはwebでやった方が面白いですしね! 一冊読み終えた時の! 気持ちよさを!」などと言った為に楽しい加筆修正マラソンを突っ走っています。自業自得の忙しさです。


 憧れは止められねえんだ……(遠い目で)


 そんな状況でお前何をやっているんだという感も有るかもしれないのですが、はいこちらクトゥルフ講座第七回ということで大人気ゲーム「Fate/Grand Order – Epic of Remnant -」の亜種特異点Ⅳ「異端なるセイレム」に出てくるクトゥルフ固有名詞とその関連事項について簡単にまとめていきたいと思います。

 考察のお供にしていただければ幸いです。


 並び順は固有名詞の作中登場順になっているはずですが、ミスで順番が前後している可能性がございます。間違っていた場合は平にご容赦を。そしてこっそり教えてください。ちなみに本日は2017/11/30ですので、まだシナリオの一部しか公開されておりません。なので、この後も進行状況に応じて内容が増えていくかと思われます。よろしくお願いしますね。


※12/01更新分に合せて以下の内容に追記・修正等いたしました

※以下の内容がお役に立ちましたらカクヨムに登録して読んでいただけると助かります


【解説~ランドルフ・カーター~】


 最初に出てきた時に学者と聞いて驚きました。軍人や作家などの職を転々としており、学の有る方ということに間違いはないのですが、彼を最もよく表現する言葉があるとすればそれは「夢見人」であり、web小説業界でいう「異世界転移者」です。

 彼はクトゥルフ神話の生みの親であるHハワード.Pフィリップス.ラヴクラフトにそっくりの人生を歩んでおり、ラヴクラフトが自らの分身として作品に登場させた存在です。

 時間と空間を自在に跳躍することができるマジックアイテム「銀の鍵」を手に入れた彼は、様々な時間の様々な場所を飛び回り、ついにはラヴクラフトの宇宙における真理へと到達し、神々の副王であるヨグ=ソトースとの邂逅まで果たします。

 その過程でかの有名なニャルラトホテプを出し抜いたり、猫の軍勢を引き連れて凶暴な神話生物と戦ったりする のですが、そのあたりはラヴクラフト全集6をご覧になるのが早いでしょう。

 もしくは、森瀬綾先生の新訳版ラヴクラフト作品集のドリームランド編が発売されるまで待つというのも手かもしれません。


 彼は猫に何度も命を救われている上に! ラヴクラフトが猫大好きなので! 彼が猫を嫌うことはありえません!


【関連項目~銀の鍵~】


 ありとあらゆる時間空間への跳躍を可能とするマジックアイテムです。ランドルフの先祖であり十字軍の兵士だったジェフリー・カーターが、イスラム教徒のハサン派の砦から盗んだとされています。

 定められた使い方をすれば好きな場所、好きな時代へと自由に移動でき、更に資格者が手にすればヨグ=ソトースの化身「ウムル・アト=タウィル」に接触し、宇宙の真理にたどり着けるとかつけないとか。

 今回、PVでも背景に良く似た鍵らしいものが映し出されているそうです。


【解説~ラヴィニア・ウェイトリー~】


 何だい君その可愛い角は。

 魔術師のウェイトリー一族の娘さんです。アルビノで桃色の瞳を持つヒロイン属性の塊で、創土社の「超訳ラヴクラフトライト」においてもかなりの不健康美女っぷりを発揮してました。残念だったなラヴクラフト御大、日本人にとってその属性はご褒美だ。

 そんな彼女は父親であるノア・ウェイトリーがおこなったとされる儀式で、ヨグ=ソトースとの間に双子を産みます。この双子にまつわる物語がかの有名な「ダンウィッチの怪」です。知らない方は読んでみてください。

 そんな彼女ですが、本来の物語だと1900年代の人物です。セイレムに居る訳が無い人物だったりします。

 本当は美人じゃないはずなんですけどね。

 

【解説~ピックマン~】


 「ピックマンのモデル」という有名な物語がございまして、その主人公と同じ苗字の老人です。リチャード・アプトン・ピックマンという名前ですね。

 リチャードは先祖がセイレムに住んでおり、魔女であるとして絞首刑に処されたという設定があります。

 そんな彼は退廃的な絵画を得意とする画家であり、セイレムのエネミーとして出てきている食屍鬼グールをモデルとした絵画がいくつも残されています。

 あのセイレムに居る一家は、もしかしたら彼のご先祖かもしれませんね。


【関連事項~グール~】

 ピックマンは最終的にグールとなって、彼らの世界に行ったと言われています。

 クトゥルフ世界でのグールはイヌのような姿をした人型の怪物で、人間の死体を主食としています。異世界であるドリームランドと現実世界の両方に存在しており、主に二つの派閥に分かれます。死体を喰うために人を殺すか墓を荒らすかという食事に対する行動の違いです。

 前者のグールであれば比較的有効に接することができるので、ピックマンも彼らをモデルに絵画を描いたそうです。

 ちなみにTLで見かけたのでガグとの関係について補足しますが、基本的にガグのことは避けてます。ガグのいる場所をすり抜ける為の方法をランドルフ・カーターに教えてます。ただ、ガグの側も基本的にグールは避けてます。


【解説~アブサラム・ウェイトリー~】


 誰だてめえ。不勉強なのかアブサラムなんて聞いたこと無いです。ラヴィニアの父はノアですし、更にその父はオリバーです。ちなみにオリバーは魔術を使ったという理由で住民に私刑を受けています。

 調べてみたところアブサラム(アブサロム)はダビデ王の三男であり、父に反乱を起こしてかなり良いところまで追い詰めたのですが、結局失敗して死を賜ることとなった男でした。今回はソロモンやダビデにも触れられている物語ですし何がしかの関係性が有るのかもしれませんね。

 

【解説~キザイア・メイスン~】


 そんなアブサラムから「頼りにならねえ」扱いされた人。

 この方は非常に有名な魔女です。魔女狩りの嵐吹き荒れるセイレムから悠々逃げ延びて、アーカムで魔女ライフを過ごす強キャラです。お供には人の顔をしたネズミ「ブラウン・ジェンキン」を従え、特異な幾何学的図形とそれによる空間操作を行う理数系魔女です。強い。

 強いけど魔女ですし、まあ保護者とか後見人にはならなさそうですよね。ニャルラトホテプの中に魔女に対して指導を行う化身がいることから、ラヴクラフト以外の作品で二人が絡んでいるのを見ますね。


【解説~マーシュ船長~】


 オーベット・マーシュのことだと思われます。

 何を隠そうクトゥルフ及びその眷属であるダゴンを崇拝するダゴン秘密教団の創始者です。

 団体の設立とか運営をやるなら恐らく世話好きでしょうし、保護者としては申し分無いですね。あと海の男だから情誼には篤そうですし、カルト集団を率いる男だからこそ魔術師の娘を保護することには積極的な筈です。自分の一族に他の一族の魔術師の娘を取り込めるチャンスを得ることができる機会を逃しはしないでしょう。

 ラヴィニアが生きてマーシュ一族の誰かの子供を作れば、アブサラムとしても血が途絶える最悪の事態は避けられるという考えになる筈ですし、アブサラムが彼にラヴィニアを任せようとしたのは当然の成り行きかなと思います。

 ちなみに原作時空だと「ダンウィッチの怪」の大分前の時代に死んでいます。ウェイトリー一族と交流があったかどうかは定かではありません。


【解説~ダゴン~】

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054881302935

リンク先で詳細に説明しています。


【解説~いあいあ、いぐない~】

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054883723242

こちらもリンク先で説明しています。アビゲイルちゃんのいあいあ非常に可愛かったですね。ちなみにいぐないについては、ダンウィッチの怪でラヴィニアの息子が父親であるヨグ=ソトースに呼びかける一節にありました。父を呼ぼうとしていたのだと考えられます。


【解説~船乗りの悪夢~】


 クトゥルフの活動が活発化するとテレパシーによって悪夢を見る人間が増えるとされています。


【解説~象牙の書~】

 

 エイボンの書を指します。エイボンの書は古代の大魔術師エイボンが残した知識を弟子がまとめたものだとされています。ヨグ=ソトースやツァトゥグアを呼び出す方法が書いてあるので、ラヴィニアちゃんとは密接に関わっていますね。


【解説~ヨグ=ソトース~】

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054881163390

 読んで下さい! 窮極の門についても触れてた筈です。


【解説~清帝国で崇拝される太った女~】

 ニャルの化身である膨れ女のことだと思われます。

 醜い姿こそが彼女の正体であり、ランドルフさんはそれをどうやって見ることができたのか、不思議ですね。

 ニャルラトホテプそのものについてはこちらで簡単に触れてます。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054881044909


【解説~ユーゴ、ミーゴ~】

 

 ユゴスとミ=ゴのことかと思われます。

 要するにこれを読んで下さい。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054880947294


【解説~外なる神~】


 クトゥルフ神話の大いなる力を持った神々の総称です。ラヴクラフト作品では旧支配者など他の神々を表す言葉と使い方の区分けが曖昧だった節が有るのですが、後のダーレスやTRPG作品などで明確になってきてます。


【解説~スト・テュホン~】


 何それ知らない。本当です。これまで書籍を見た中でそんな別名見たことないんですよ俺。不勉強なだけかなとは思うのですが、やっぱり知らない分からない。

 ツイッターで、ケネス・グラントがアレイスター・クロウリーの守護天使をヨグ=ソトースと同一視したという一次資料を紹介なさってる方がいらっしゃいました。私も知らなかったので、大変勉強になりました。


【解説~イブン・グハジの粉~】


 ウェイトリー一族の登場するダンウィッチの怪において、ラヴィニアの次男である怪物の姿を見る為に使われたとされています。元々ラヴィニアの長男が日記で「これを使うと弟の姿が見える」と残していたことから利用されてしまいました。

 皮肉なことに魔術と関係していなかった別のウェイトリー一族が、この粉の力で姿を表したラヴィニアの次男の冒涜的な悍ましい姿を見て、一時的狂気に陥ってました。

 今回のシナリオでは、ラヴィニア自身が製作して黒幕を追い詰めるので、なんとも皮肉なものです。ちなみにゲームで素材は死体になってましたが、CoCだと特にそれと限らないことになっています。更にダンウィッチの怪では大学から持ち出した薬品で調合されたのではないかと推察される表記があります。


【解説~シャンタク~】


 ニャルラトホテプって奴の手下なんだ! 馬の頭をした大怪鳥です。乗り物として扱うことも可能ですが、発作的に外なる神であるアザトースの玉座まで飛んでいってしまう可能性が有るらしいので、お勧めしません。


【解説~薔薇の香り~】


 銀の鍵でヨグ=ソトースに会いに行くまでの道のりの中で、薔薇の香りの海の中を漂うという工程があります。只の海ではなくて酷熱の海とありますが、他の描写では温もりだの葡萄酒だの表現されているので、ホットワインに近いのかもしれません。


【解説~一人の夢を見る男が吐き出した創作神話~】


 はい、H.P.ラヴクラフト御大の話です。


【解説~作家や芸術家でしたら~】


 クトゥルフ神話の物語の中に、クトゥルフという神が封印されているルルイエが浮上したことで、クトゥルフの毒電波を受けて一部の創作者達のしごとが捗ってしまうみたいな下りがあるんですよね。

 それを踏まえた台詞だと思われます。私も星辰が比較的正しい夜は毒電波バリ4で受けてます。


【チャンドラプトゥラ】


 惑星ヤディスのズカウバという魔術師の精神に、夢を通じてランドルフ・カーターが憑依した後、地球に降り立ってから使った偽名。当然ながらズカウバは人間ではないので、その外見をごまかす為にゆったりした衣服、蝋の仮面を被って普段は活動していたそうです。立ち絵の都合かもしれませんが、あのカーター氏の服装とちょっと似合いませんね。ですが今回のシナリオがチャンドラプトゥラとして舞い戻った彼のちょっとした寄り道だとすると、二次創作としてすごい素敵だなと思いました。

 ちなみにズカウバの身体で地球の言語を喋るのはしんどいそうなので、声がどうしても不自然になっているそうです。


【最後に】


 という訳で本日は突貫工事で解説ネタを書いてみました。本当は無貌の王と無貌の神と皐月の王の話とクトゥルフ的にメイイブ(4/30、5月の前の日)の話とかもしたいのですが、先走ってミスリードだと恥ずかしいので止めておきます。お話全部出てからにします……と書いたのですが、出てきましたねメイイブ。

 詳しくはこちらに載っているので読んでおいてください。ニャルもかなり怪しいのですが、ヨグ=ソトースの妻であるシュブ=ニグラスがメイイブの主役です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054880926754


 現在、書籍化作業中の邪神任侠は三月の発売を目処としておりますので、クトゥルフ×ヤクザとかいうトンチキな話に興味の有る方やクトゥルフ講座の取材費をお布施してくださる奇特な方は二冊でも三冊でも買ってくださると、

①私の懐が潤い

②私を拾ってくれた編集さんの手柄となり

③そしてこの講座の内容が充実する

とまあ非常に素敵なことになるので買ってください。経済って奴ですね。

 ちなみに、カクヨムでも「仮面の夜鷹の邪神事件簿」という作品がセイレムの魔女狩りを題材にしたエピソードを出しています。素敵なクトゥルフ×ヒーロー物なのでぜひ皆さん読んで下さい。


 それでは本日の講座はここまで。

 次回までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬように。

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