心理学を加味したライトノベル風ミステリ

6/5 新章と改稿に対して評価を増やしました。今後の活躍をさらに楽しみにしています。
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安楽椅子探偵である兄を溺愛している妹が、兄にアドバイスを貰って殺人事件を追跡するミステリである。
キャラクターは個性的で、かき分けがはっきりできている。昨今のライトノベルによく見られるタイプをおさえており、その分野に慣れている読者には抵抗なく読めるであろう。
トリックには複数の仕掛けが込められ二転三転する展開となっており、伏線の回収も丁寧で、ミステリとしても一定の水準は満たしているように思えた。また本作ではユングなどの心理学を援用した推理を取り入れており、読者の知識欲を刺激する方法として一定の成果が期待できると評価したい。

ただし、作者の心理学にまつわる医療関係者や警察組織について、誤りと不自然さが散見されたので、ネットでの検索はもちろん、本職への取材や本職の書いた文献にあたり、知識を深めて欲しい。タグにエセ心理学とあるが、そうした逃げを打たず、心理学なら心理学としっかり向き合い、確固たる武器としてよりよい作品を目指せる内容である。
特に冒頭で推している心理学を最後まで使い切らず、途中から他のミステリと同様の論理で真相に至っている点は残念である。正確な知識を背景として、読者になるほどと思わせる説得力を持たせて欲しい。

この作品群でもう一つ気になったのが、主人公、泪の描写である。端的に言うと、兄への愛であれだけ暴走しているのに危なげなく結果に到達してしまうので、鼻持ちならないキャラクターに見えた。真相はさておき、恨みがあっても病人にたいして不遜な態度をとるのはいただけないし、友人の不幸に対する反応も表面的過ぎる。保健室登校を本人の問題と考えるのも、フィクションとして良い表現とは言いがたい。こうしたモラルを疑うような記述は、泪への不必要な反感をかう大きなマイナス点である。兄以外の人間に価値を見出さない性格は特徴的ではあるものの、それだけでは魅力にならない。
泪の特徴を物語に活かすために私から勧めたいのは、兄への愛を大失敗に繋げることである。兄を自慢して嫌われ、兄をかばって犯罪に巻き込まれ、兄以外をないがしろにすることで死にかける。そしてそれを泪に独力で克服させるのである。例えば携帯電話をなくしたところで犯人と鉢合わせたり、兄自身を誘拐してしまう方法もある。それによって読者は泪に同情し、兄への愛を認め、応援し、泪の歪んだ愛情を許せるようになる。
娯楽作品では主人公をひどい目に合わせるのは鉄則である。大天才とかモテモテとか俺tueeeといわれる主人公でも、それは設定上の話であり、本編内では苦労して失敗して負けて死にかける役どころでなければまず物語は面白くならない。主役を極端に優遇するならホームズもののように語り手を別に置くか、一部の特殊なジャンルと考えるべきで、それらはおそらくこうした作品に馴染む方向ではない。

気になる点をいくつか述べたが、ミステリとしての基本及びライトノベルの基本をおさえていることと、知識を吸収する意欲があることから、克服は容易かと思われる。間をおかず知識を取り入れ、傑作につなげて欲しい。

なお、私の身近な人に臨床心理士と警察がいるため、いくつか作品に対する指摘をもらえました。書いて良い場所を教えてもらえればお伝えします。

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