ゲーム会社で働く登場人物の描写が程よく綿密で、会社内部の何気ない情景の切り取り方も上手く、読者に没入感を与えることに成功している。それが結果として、作品の「リアルさ」やストーリーの説得力に繋がり、深みのある作品に仕上がっていた。
サスペンス寄りの作品で推理要素は少なめだが、テーマと響き合う叙述トリックでも仕込めば、『殺戮にいたる病』のような小説にもできそうで面白い。
また、個人的には「光田寿」という、作者と同名のキャラクターに魅力を感じた。テンポと勢いが良い軽妙な語り口のセリフは、生活感を感じさせながらも、現実を一歩引いた視点から笑い飛ばしているような、独特の雰囲気がある。
まず何よりも、短編でこれをまとめた手腕に舌を巻きました。
作者と同名の登場人物が出て来るのは、ミステリーでは伝統。
また、作者自身もゲーム会社勤務なのでしょう。高知県の方言も達者なもので、現実と虚構をオーバーラップさせる「作者同名演出」は成功していると言えます。
不可解でおぞましいバラバラ殺人の冒頭と、一見無関係なゲーム会社のミッシングリンクをさり気なく張りめぐらせる筆力も堂に入ったもので、ところどころ挿入される実在のゲーム知識やミステリ作家の薀蓄など、ニヤリと出来る小道具も満載。
作者の遊び心とインテリジェンスを惜しみなく凝縮させた、秀麗な短編です。
感服。