エピローグ

素敵なもの

「おめでとう、千代」

「綺麗だね」

 美香と優子が私に声をかけてくれる。

 高砂に座り、慣れないドレスに身を包んで私は返す。

 目の前に立つ二人も着飾って、とても綺麗。

「ありがとう、でも二人の方が」

「こら、主役」

「ダメだよ!今日は誰よりも可愛いんじゃなかったの?」

 二人に止められ、私は苦笑する。

「おめでと、千代」

「奈々」

 不意にその輪に加わる女性に、私は彼女の名前を呼んだ。

「同級生?」

「うん、高校の。星さん」

 優子に問われ、美香が奈々を紹介する。

「それにしても奈々の高三の時の大変身もびっくりしたけど…その後の進化にも驚かされたよ」

「あら、そう?中身はさして変わってないよ」

 美香の感心する声に、奈々はニコリと微笑んで見せる。

 奈々は昔は金髪にミニスカ、ギャルメイクのとてもインパクトのある子だった。ある日突然格好をおとなしく変えて周囲を驚かせたが、そのまますっかり清楚な女性に仕上がった。頭は良く気が利くので、仕事でも活躍しているようだ。職場でも交際の申込が後を絶たないらしい。

 本人は「そういうのは良いの」と、あしらっているようだけど。

「まあ…一番びっくりしたのは…アッチだけど」

 そういって美香が視線を向けた先には、可愛らしい女性がいる。

 奈々はどちらかと言えばキレイ系だが、あちらはカワイイ系。

 男性何名かに囲まれ、明るく笑って話に華を咲かせている。

 奈々ほど素材は良い訳じゃないのが正直なところだが、仕草や立ち居振舞いが可愛くて、周りに可愛がられるタイプだ。

「あれ…本当に高月さん?」

「もちろん」

 美香の質問に奈々は即答する。

「あの人も同級生?可愛い子だね」

 彼女の過去を知らない優子は呑気に言う。

 私と美香は顔を合わせる。高校時代の高月さんからは、到底想像できない人物がそこにいるよね。私たちはそう眼で会話をした。

 彼女の高校の時の印象は、正直言って、ほぼ無い。黒く長い髪で顔を隠し、いつも下を向いて、良く保健室にいた、影の薄い子。それ以外、覚えていない。

 あんな明るい笑顔は初めて見た。

 あまり交流の無かった彼女を結婚式に呼ぶのも逆に失礼かと思ったが、奈々とルームシェアをしていると聞いて、もし本人が迷惑でなければ一緒に出席してくれるか、と訊いたらあっけらかんと「良いの?千代さんの花嫁姿見たい!行くよ」と答えてくれた。

「…奈々、一体彼女に何をしたの」

「ひみつ」

 私の問いに、奈々はウインクをして答えた。


 奈々のウインクに肩を竦めてから、私は彼女たちを改めて見る。

 着飾って輝いて、色とりどり、宝石みたい。

 いや、まるで、チョコレートのアソートボックスみたい。

 カカオの苦味は消えた訳じゃない。でも、たくさんの砂糖や油脂で誤魔化して、スパイスを練り込んだり、パラパラとトッピングを振りかけたり、綺麗なプリントを施して、愛想良く並んだチョコレートたち。

 彼女たちは、今日も明日も、そうして生きていくのだろう。

 勿論私も。


 今なら何となく、わかる気がする。

 底にどんなどろりとした苦味や渋味か残っているとしても。

 砂糖やスパイス、素敵なもの全部。

 女の子は、そんなものでできている。

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カカオ・コレクション 暮月いすず @iszKrzk

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