このキャッチボールはあなたに届くだろうか?

この物語は心温まるハートフルな物語では決してない。しかしまた、単なるSFやミステリーという言葉でも表せない。私にはぴったりの言葉が思い浮かばない。
キャッチボールが苦手な主人公哲也の父が自殺したところから物語は始まる。父の死の真相を追いつつ成長していく哲也。その成長の過程は本筋に関係ないところを削ぎ落とした余り、無機質になったりなどしていない。本文を通じて横たわる静寂さの中で、淡々と描かれる哲也に感情移入できるのは一重に筆者のAIに関する知識と筆力の高さによるものだろう。そして特筆すべきはラストのシーンである。今までの伏線を回収しながら、予想を裏切るラスト。そして、今までと打って変わり、感情的になってしまう哲也。それを、ありありと描く筆者には感嘆してしまう。
一言でこの作品を言い表すことはできないが、自信を持っておすすめできる素晴らしい作品だ。あなたは読み終わったとき、この作品をなんと表現するのだろうか。

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