第3話 鳩の知らせ
日曜大工の真似事で、棚を作ってその上に鉢植えを置くつもりだったのが、マンションのベランダから落下した鉢が、真下の通行人に当たって亡くなった。そう言うニュースを目にして、止めにした。極々希な不幸だろうが、恐ろしくなった。ベランダに棚だけ作って、放っておいた。それをいい事にして、野鳥がたびたび雨宿りに来るらしい。が、そこへ棲み着かれても堪らない。早いうちに棚をどかそう、どかそうと思っていた矢先に、また鳥が翼を休めている。
それは大きな鳥だった。鳩だった。小鳥なら驚かして追い立てるのだが、大きな鳩には何もできなかった。それが何度か続いて、すっかりそこに慣れてしまって、完全に鳩には舐められていた。しかし、慣れたのはこちらも同様、驚かすくらいなら何とかなりそうだ。恐る恐るベランダへ出て行って、わっとやるつもりだった。あるいは遠くから、ほうきの柄を振り回そうと作戦を立てていたのだ。ところが、いざ追い立てると言う段になって多少躊躇った。戸外は酷い土砂降りで、この雨の中へ追い出すのは、鳩が可哀相な気がした。その日は大目に見て、そっとしておこうと思っていると、鳩の足におみくじをくくり付けたような物が見えた。伝書鳩か何かだろうかと思案しながら、誰が飛ばしたのか妙に気になった。悪いと思いながらも、その誘惑には逆らえなかった。鳩は非常に大人しかった。まるで私自身に宛てた文のように、じっと動かなかった。大きさもおみくじそっくりであった。が、おみくじでは無かった。ただ赤インクで印刷されたような、漢数字で「二十三」と記されていただけだった。どうも他に書かれていた所は、この雨に濡れてすっかりインクが流れてしまったらしい。しかし、二十三とは何のことだろう。二十三番、二十三時、二十三時間、二十三日、と勝手に想像してみた。やはりこれだけでは、全く埒が明かない。
それから間も無くして、また鳩はやって来た。今度も足に文を結んでいた。その時には、まるで躊躇わずに、すぐに鳩の足から文を解いて開いていた。文は同じであった。ただ前に消えていた所も、幾らか残されていた。それがしばらく続くうちに、次第に文の内容が分かってきた。が、それと同時に恐ろしくなってきた。それは人ならざる者から、送られて来るように思えた。――文から読み取れたことは、「二十三」と「誰かが死ぬ」、「落」、時刻は何時か分からないが、とにかく二十五分ごろだと言うのだ。そうすると、二十三とは、二十三日のことだろうと想像が付く。その日は間近だった。
私は死ぬのは、私自身だとばかり思っていたから、その結末は全くの不意打ちだった。死んだのは鳩だった。鳩は、いつもと同じように棚へ止まりに来た。私はベランダに出るのが怖くなった。ところが、躊躇っているうちに、鳩は物凄い勢いで、地上数メートル下へ落下して行った。間も無く階下でバンと衝突音とともに、キャーと悲鳴がし、騒然とした空気が上階まで立ち上って来た。私は、まるで私自身が植木鉢を通行人に投げ付けてしまったような思いがして、とてもその後、鳩がどうなったのか、それから、階下の悲鳴の真相を確かめることができなかった。
地蔵ゴーランド (怪談掌編集) つばきとよたろう @tubaki10
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