この正統派歴史小説、ごらんあれ!

筒井順慶は、戦国の世に自らの有能さと人徳を遺憾なく発揮しながらも、時代の流れに翻弄され、決して自分の思うようには生きられなかった悲劇の名将です。

筒井城合戦――戦国の大合戦に比べればあまりにどマイナーな戦場から始まる物語。
しかし、登場人物は歴史的にも彩り豊かです。味方のはずなのにやっぱり腹立たしい三好三人衆。敵対するは戦国きっての大悪人松永久秀。二者に挟まれて苦悩する順慶を支えるのは、これまた未来の勇将島左近。まるでそこが大動乱の前哨戦であるかのように、英雄たちが躍動します。そして迫り来る「戦国時代の主役」の影。

戦記モノとして、より物語を動かすことに主軸が向けられており、落ち着いた筆致ながら、堅苦しさはまったくありません。欲しいところをバシバシと導入してくる構成はスピード感を持って時代を進め、困難な状況にも全力を賭し続ける登場人物たちの今後には、歴史として判っていながらもどうなるかハラハラさせられます。

果たしてこの苦悩と苦労の大人物を、作者はどのように切り開き、その胸のうちに迫っていくのか。
質の高さと面白さを保証すると共に、今後に強い期待を寄せずにはいられない一品です。

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