こいつは軽妙ながら、真実を突くSF論。激しく首を縦に振りたくなる。昔々、大好きだったSFが、いつの頃からか読むのが息苦しくなって、今ではほぼ読んでいない。何となく過去の名作さえも、読むのが億劫になってしまった。
何でかなと思っていたら、本作で犯人が炙り出されていた。『SF警察』だ! こいつらの見えない圧力に屈してしまっていたんだな。
あー良かった。理由が分かったよ。だから、これからは『SF警察』に見つからないように、隠れてSFを読めば良いんだ。
読む方は分かったぞ。でも書く方は駄目だな。隠れて書く分には構わないが、人目に触れたら危険だからな。何しろ『SF警察』はどこにでも潜んでいるのだから。
最近では、『ミステリー警察』の存在も囁かれている。とにかく、捕まらないように上手くやるのが肝心だ。
小説ジャンルで言えば「本格」ミステリとは何か、あるいはライトノベルとは何か、音楽で言えばロックとは何か、あるいはジャズとは何か。
どれもこれも語るには難しすぎる問題で、大体それっぽきゃあなんでもいいよ、と思う自分も確かにいるし、しかし、その反面俺の中では確固たる「これは○○だ(あるいは○○度が高い)けどこれはそうでもない(他のジャンルだ)」みたいな軸が存在することも確かで、だからSF結構好きなんですよね、という会話はそれ単独ではディスコミュニケーションを生み出したりして、つまり結構メンドクサイ話なのである。
とにかくそういうメンドクサイ、なんとなくコワイ、SF警察を取り巻く言説についての人を怖がらせることのない「呟き(考察、ではなく)」の物語である。このSF警察幹部氏の語り口はとても呑気であるので、それを読むとほっとする。ありがたいことである。