第11話(最終話) 食えねえ奴
翌朝、町は祭り後という雰囲気でもなく、いつものような明るい、温かい陽射しで満たされていた。
向かう途中でお菊の店の前を通り過ぎながら声を掛ける。店支度をするお菊の母が先に行ったと教えてくれた。
息は白くなっており冬を全身に感じつつ目的地に着く。すでに子どもらが集まっておりどうやら葉一が最後のようだった。
「ごめん、遅くなった」
集まっている中から輝喜とお菊を見つけると駆け寄る。
「おっそーい! あんた迎えに来るって言うから待ってたのに来ないんだもん」
「何だよ、先に来てたくせに」
「まあまあ」
いつもの三人の後ろには巨大な風車、太陽光パネルと煙突が見える。
「それじゃあみんなそろったところで、班ごとに分かれて作業をしてもらいます」
喜助は集まった子どもたちを数人ずつに分け班ごとに説明をしていく。
――、子どもの電気屋手伝い、勉強の機会を与えること。これが喜助の考えだした出来ることであった。
町長の許可を得て、町の活性化、発展のためという条件のもと学校を復活させることを取り決めた。
それが電気屋の家名松下にちなみ、松下町塾と呼び親しまれるのはもう少し後の事である。
「俺の一方的な心境の変化だが聞いてくれ。前の妻のことを心から愛していた故に俺の心は歪んでしまっていたらしい。だが、今となっては人の愛し方がわからない。子どものとは違う意味で愛し方がわからない。この人だから愛せるとか、この人じゃないと愛せないとかそういう子どもの愛し方でなくて、目に映る幸せを愛するという愛し方を忘れてしまっているらしいんだ。なあ、お前がここに押しかけて来た時、お前は俺を愛していたのかい? 今さら聞くのもバカな話だが、お前は俺を愛してくれているのかい? それすら今は不安だよ俺は」
そう言われた女は口元で笑むと優しい目をして見せる。
「さぁ、どうでしたかね」
ラン太郎は台所でつまを盛りつけている。
「親父、お袋! 朝からいちゃついてないで店開けてくれよ」
町は今日も動いている。円を描く鳶の高く高く旋回していく様に。
左腕を失ったオリオンが天高く昇っている。
あの星雲は次々と新しい星を産んでいるのだろう。
「喜助ぇ。最近つまやがつれないんだよ」
「夫婦の邪魔してやんなって。あと飲みすぎだぞ」
「俺だってなあ本気出せば美人な女房くらいつかまえられれんだぞぉ」
星見酒。昨日より1°傾いた星々を眺めては見えない変化を楽しむのだ。
「バラン屋、お前は本当、食えねえ奴だよ」
終
ばってけ 狐夏 @konats_showsets
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