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いたってふつうの女の子が恋をしたっていいじゃない【1話】

第1話 偶然の出会い

 私は、父はある新興宗教の熱心な信者で、母はテロリストの普通の女の子。

 父と母は政略的な結婚だったそうだが、私はそれとはまったく関係なく性(せい)の性(さが)によって産まれすぐに祖父母の家へと預けられた。

 そんな私はいたって普通に育ち、普通の学校へ通い、そして普通の女の子らしく恋をしている。


 賑やかな公園の噴水前。時計台の針は1時5分を指すところだ。

「はあ、ちょっと早く来すぎちゃったなあ」

 家にいても気持ちが落ち着かず、自室からリビング、リビングから廊下と行き来してみてもどうにも落ち着かず、ならいっそと家を出てしまったのだけれど案の定待ち合わせの時間よりも30分以上前からこうして待っていた。

 噴水の周りには他の待ち合わせをしている若い人たちや犬の散歩の途中なのだろう休憩している老人、大道芸人から風船でできたプードルをもらって喜んでいる子どもたちなど、みなそれぞれがそれぞれの休日を同じ場所で過ごしている。

 何度目になるか周りを見回し彼の姿が見えないか確認する。遠くでこちらに手を振っている人影が見え目を凝らすと隣に座っていた女性が突然立ち上がりそちらに向かって手を振りながらかけていく。それを見て私は何度目かの溜息をついた。待ち合わせまで23分もあるのだからまだ来なくて当然だろう。

 そうそう、待ち合わせというのは、そのテレビやマンガでよく見るつまりデートというもののそれで、私はそんな夢のようなことを生まれて初めてしているわけでいや待ち合わせじたいはしたことあって、友達と休日に出掛けるときとか。初めてというのはそっちでなくてそのデートのことで。そもそも先週まではこんな約束をするなんて思ってもみなくてそれどころか異性と無縁なまま16年間生きてきてしまった私にとって男子とまともに話すことすら誰が予見していただろうかってくらいで。

 もし神様というのがいるならきっとこれはそういった超常的な力によって気まぐれで引き起こされたことに違いない。だって……だってだってだって彼みたいな優しくてカッコよくて私みたいな女子でもちゃんと話聞いてくれてデデデデデートだってOKしてくれてうひゃぁああもう幸せすぎて夢なんじゃないかってくらいどうしていいかわからなくてOKもらった日なんかほっぺたつねりすぎて次の日虫歯みたいに腫れちゃってそれをまた彼に心配なんかされちゃってうわぁあああ思い出しただけでもにやけちゃうううう!

 はああ、私の王子様。早く来ないかなあ……。

 そんなことを考えながら私は彼とはじめて出会った日のことを思い返していた。


 けたたましく鳴る目覚まし。母の急かす声に起こされ時計を見る。8時……遅刻という2文字が頭に浮かび脳が覚醒する。

「うわぁああ! なんでもっと早く起こしてくれないのー」

 パジャマをぽいぽいと脱ぎ捨てハンガーの制服をとにかく身に着け鞄を取り階段を駆け下りる。キッチンではめずらしく帰ってきた父と母がゆっくりとくつろいでいた。

「いっふぇひむふ(いってきます)」テーブルにおいてあったオレオを牛乳で流し込み片足立ちで靴を履きながら玄関のドアを開ける。ゴールデンウィークが明けて強くなりはじめた日差しに目を凝らして緑の街路樹並ぶ大通りを走る。

 休み明けでいきなり遅刻なんて目立っちゃうのは嫌だなんて思いながら急ぐ。信号に捕まらなければギリギリ間に合うはず。はずなのに、いきなり赤信号に出くわすなんて最悪……。1個くらいなら挽回できると気張ってスタートシグナルよろしく青に変わると駆け出す、とほぼ同時に視界に何か飛び込んできてそれが車だとわかるも危ないと目をつぶることしかできなかった。もうお終いだ――と思ったがいっこうに意識も途切れず車のぶつかる衝撃もないままだった。

 恐る恐る目を開く。とそこには一人に男の子が立っていた。

 あれ、車は? 見回してもさっきの車らしきものは見えず騒がしかった通りには私と見知らぬ少年だけしかいなかった。目の前の信号が点滅している。赤へと変わり別の信号がピーピーと鳴る。車は来ない。私は立ち上がり歩道に戻るが少年は動く素振りも見せない。

「あ、あの。そこにいたら危ないですよ」

 その言葉でやっと彼はこちらへ振り返った。振り返った瞬間、ポップコーンが弾けたような甘い音がして胸のあたりがキュッとなった。緑風の爽やかさそのものといった顔立ちにスラリと細身の長身、白い半袖のワイシャツに学校指定の赤い真新しい色合いをしたネクタイが風になびく。自分がこの男子にときめいていると気付くと途端にそれを悟られてはいまいかと恥ずかしくなり顔が熱くなりだした。

 恥かしくて俯いていると、信号が変わったのだろうか車や街の騒音が聞こえだす。

「大丈夫?」

 いつの間にか私の隣に立っていた彼が顔を覗き込むようにたずねる。

「だ、だだだ大丈夫ですっ」

 私は自分が今どんな顔をしているんだろうとそればかり気になって、彼に変な顔を見せてしまっていないかとますます恥ずかしくなる。

「私、急がないといけないんで」

 と道を渡ろうとすると彼の腕が私の前に伸びてきて踏切の遮断機かなにかのように通せん坊をした。私はその腕にぶつかってしまい、あ、と声が出る。

「信号、まだ赤だから」

 彼は言いその腕で私の肩を軽く押し返す。健康的な彼の腕が悲しいかな肉付きの気になっている弾力ある私の体に触れていて、その感触のあまりの違いに緊張からか情けなさからか体が小さく震える。


(ど、どどどどうしよう。彼に気付かれたら余計に恥ずかしいよう)


 もう死ぬほど恥ずかしくて早く信号が変わってくれたらいいのにと思うも、10分以上待っているんじゃないかっていうくらいに信号が変わるのが長くて余計にもどかしい。

 私は信号が変わると一目散に駆け出した。


 ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く中、教室の入り口で両手を膝に私は肩で息をしていた。たぶん自己ベストで学校に着いただろう。あの後がむしゃらに走っていていくつ信号で止まったかすら覚えていないほどだった。

 席に着いてハンカチを取り出し額や首周りの汗を拭う。本当ならキャミソールも着替えたいくらいだったけれど、こんなに汗をかくと思ってもなかったし体育がある日でもなかったので着替えもタオルも持ち合わせていなかったのが悔やまれる。

 間もなく先生が入ってくるとホームルームとなり何事もなく1限が始まった。


 それが彼と初めて出会った日のことだった。


1件のコメント

  • 本作にはオレオが含まれているため近況ノートでの公開となっています。
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