この物語は、三人の視点で語られている。その普遍的な手法は、王道と言っても良いのかもしれない。
ひとり目、内向的な女の子の視点。
そんな性格の彼女が、駅の反対側のホームからの、男の子の視線を感じた。そこから始まる彼への興味、煽る友人。ドキドキするような仄かな恋心が芽生え、一歩を踏みだそうとした時……。
ふたり目、社交的な女の子の視点。
内向的な彼女を見つめていたらしい男の子とは旧知の仲のようだ。しかし、純粋な応援が、ゾクゾクする純粋な嫉妬に変貌を遂げた時……。
そして、三人目、その男の子の視点。
序章と終章として、ふたりの想いを挟みこんだ視点が、物語を良質のサスペンスへと導いている気がしてならない。
この物語、とんでもないほどのバッドエンド。不謹慎と言われようが、そこが、実におもしろいのだ。
さて、一番の悲劇は、この物語の何処にあるのだろう……。
片想いは悲劇である。
こと恋愛初心者の中高生においては暗中模索せざるを得ず、
駆け引きが何たるかもわからないまま謎の行動力を発揮したり、
かと思えば、相手の一挙手一投足に振り回されて右往左往したり。
本作は、そんな甘酸っぱい年頃の少年一人と少女二人による、
片想いを巡る通学時間の情景を、回想を交えて綴った恋愛小説
ではない。
好対象な二人の少女の視点で各々、不器用な恋愛模様が描かれ、
少年への感情が形を持ち始めたそのとき、強い風が吹き付ける。
読者諸兄は、本作が「ミステリー」であることをお忘れなきよう。
衝撃の急展開には「片想いは悲劇である」と嘆かざるを得ない。
本当に、なんて可憐な恋愛小説だろうとニマニマしていたのに。
ああ、ひとつだけわかったから訂正しよう。
鈍感はどうしようもない悲劇であるぞ、唐変木!!
緩やかな斜面をゆっくりと登る登山電車のように、少しずつ少しずつ、カタコトと終着駅に導かれて行くたおやかな恋愛小説……で終わるならばミステリーのカテゴリにいるはずないわけで、既に多くのレビュアーさんが言及なさっているように衝撃展開があります。
物語を貫くギミック自体はさほど複雑なものではありません。しかし丁寧で繊細な感情描写が展開の急変にゾッとするような落差を与え、その恐怖と驚愕を作品の骨子として成立させています。恋愛小説としてよく出来ているからこそ、ただの恋愛小説ではない作品となっている。そういう矛盾を孕んだ小説です。百聞は一見にしかず。是非、ご一読下さい。
高校生。
女が2人と、男が1人。
青春ど真ん中の恋模様が
それぞれの視点から語られて
ループのように進む物語。
その構成が見事なことと
もちろん作者の筆致が巧みなことで
「次はどうなるの?」と
ワクワク……いや、どちらかといえば
ドキドキさせられます。
読んでるほうとしては、
まごまごしてる登場人物に
「あーもぅ、早く言いなさいよっ!!」
と説教してやりたくなるし、
キャラのひとりである咲良も
「ばかばか、馬鹿。その交差点は、
あたしたちの帰り道の、分岐点じゃないか。
そこまでいったら、道が分かれちゃうじゃないか」
なんて心で怒鳴ったりしてて、
やきもき、やきもき。
しかし物語は予想外の方向へ進み……
と、ネタバレはやめときましょう。
結末まで、約3万2000字。
読む間、小説の楽しみが存分に味わえることを
ここにお約束します。
ミステリーとジャンルが変わっていたので、あらためて評価をしに参りました。
ラブコメと思って読んだら地獄を見たぜ…。
いや、今から読む人にもどうかラブコメとして読みはじめてほしい。
最初の方を読んでみてどうでしょう。きゅんとくる、きますよね?高校生の、初々しい感じ、そしてちょっとしたすれ違い。それはとても些細な差で、すこしだけ三人がそれぞれ違う方向を向いていただけのーーー
視点は三人それぞれに切り替わって進みます。それぞれの見えているもの、いないもの、よくある日常、青春の一コマ。それらがとても繊細に綴られていく様子は、自分が青春を追体験しているような気分にもなります。
そして物語は急転ーーーー
ふわふわ浮ついた気持ちが一瞬で吹っ飛ぶスピード。ワイルドすぎる。
別な意味で足が地につかなくなる、そんな気分をどうか他の方にも味わってほしい。
近況ノートの方で作者様ご自身がイヤミスと表現されていましたが、まさにそれ。最後のθの章はほんとーに読むのが辛かった。今も思い出すとお腹が重くなるのは多分まだこの世界をひきずっているから。
読み終えて心が痛い。一人称で語られる三者三様の一方的な思いで展開する世界は、高校生特有の閉塞感と焦れったさと相俟って息苦しい。
作者の作品はどれも完成度が高く群を抜いており、この作品もまた例外ではない。どの文章も、一見さっと読めるようでいて緻密で深い。どの一文もその場に必要とされ、過不足なく読者を場面に誘っていく。
一人称による心情描写が見事で、よくまあここまでJKの女心が分かるものだと感嘆至極、何度も胸を突く。この描写力は天性なのか努力の賜物なのか、いずれにせよ溜息しか出ない。
衝撃の場面は、最初は何が起きたのか分からなかった。それは読む側の自分が、まさかの展開に動揺の余り、前後関係が読み取れなくなったからだろう。それくらい、意外なものだった。
そして同時に思ったのは、この結末を最初から狙って書かれたとしても、もしここを全く逆の展開にしたら、この話はどうなっていたのか、である。久保田氏は「作品の感想は読者に委ねられる」と近況ノートでも語っておられるので、甚だ勝手ながらそれをお許し頂きたいと思う。そうすることでしか、いまは沸き上がる悲しみを宥る術をもたない。
恋愛・ラブコメジャンルになっているが、恋愛・悲劇ジャンルをこの作品の為に創設して欲しいと思った。もしそうなったら臆病な私は最初から読みに訪れなかった可能性はあるが、少なくとも今は久保田氏の書かれるものは片っ端から読みたい「久保田病」に掛かっており、作品の魅力を正確に提示することで、より読者を呼びこむことができるよう願う。
最後に、「久保田病」は、私の場合は読破の度に自作原稿を破り捨てたくなる&連載辞めたくなる病も同時に発症するのは勘弁して欲しい! と毎度叫んでいる。ほんとに、参ります。
なので、書き手さんは推敲&投稿完了後に読まれるのがおススメです。